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【小話】白黒の価値【更新】

黒蝶堂の書物には、値札がついていない。

理由は複数あるのだが、その一つとしては、値札のシールを作成する財源がないということだ。加えて、扱う商品の大多数が古本であるから、仮にシールを貼ったとしたら、ただでさえ傷んでいる品物がますます質を落とす可能性がある。直接カバー裏やら背表紙やらに価格を書き付けるのは、なおさら御法度である。

祖父の伊織が堂長であった数年前までも、彼の記憶には、値札を見たという過去はない。

商品の価値が外見にあるとは、はちは思ってはいない。
しかし、「それでもな・・・」と、彼は堂長席に積み上がった文庫本を手に取った。

ーー本に、どれだけの真実があるのか?

ふとよぎった疑問を片手に、ページをめくる。

文学作品の中でも、著名な棚に並べられる連作短編集だ。
カバーはとうに無くなっており、色あせた表紙にはそっけないタイトルが書き付けられているのみだ。掌に顎を乗せ肘を突き、反対側の手でめくると、知識として知っているあらすじが、多大な文字数を浪費しつつ流れ始める。

彼は、深いため息を吐く。

内容も著者名も、作り物である。偽名による、妄想の固まりである。文字にインクが落とされているだけだというのに、発表されてから今世紀に至るまで、読者となった人間たちの心を揺さぶり、時に世間を揺るがせた、罪深い内容らしい。

彼自身は、いわゆる文学作品を好んで読むことはあまりない。文学作品はもとより、堂長席を取り囲む書棚の内、結構な割合を占める”小説”に対し、興味を覚えるという経験に乏しかった。

「・・・どうせ全部嘘なんだしよ。」

と、言葉にすることもあった。

ここ最近、お偉方が決定した制度の改革が世間にも認知されはじめ、「必要物資は急いで買うべきかもしれない」という風潮が広がっている。真に受けた同居人が「困りましたね!」と騒いでいたことは記憶に新しい。

だが、堂長は予測している。
黒蝶堂には大した影響はないだろう、と。

ただでさえ少ない客人が書物を買うかどうかは、もちろん価格の面での妥協点はあるだろうが、それだけが購買欲に直結するというわけではない。書物とは、ただ日々の生活で消費される物品とは異なる。だから、定価はそのまま、付属の価格が上昇しようと下落しようと、黒蝶堂の売り上げは増収も減収もしない。書物の価値が増価するか減価するかは、価格によるものではなく、読者の思考の変動次第であるからだ。

「・・・って考えてると、むなしくなってくるな。」

来堂する客人の減少は、自分たちがどうあがいても避けることの出来ない、訪れうる近未来である。だが、大きな力による変革を前に、自分たちができることなぞ限られており、所詮は無駄なあがきである。そして黒蝶堂は、客の少ないことが通常運転である。少ない客は、妙な思考回路の者が多く、彼らは、価格だけに価値を求める者ではない。

だからこそ、黒蝶堂には大した影響はない・・・はずだ。

生活水準は厳しいが、価格自体は「大きな力」の影響を受けさせない予定だ。ないはずの値札には、当然反映されない。そもそも、最初から「その分」が含まれていたのか、先代の頃から明らかにはなっていない。だからこそ、焦燥感はまったく無かった。

「・・・だとすれば。」

価格の根拠はどこにあるのか?つまり、

ーー本に、どれだけの価値があるのか?

彼はふとよぎった疑問を片手に、書物を置いた。
その理由はおそらく、書物の中にはない。

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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

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説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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