【小話】四方八方明度の忠告【更新】

「たくさん蕾が膨らんだなーと思ったら、春だったんですよ。日差しが強まったら夏が来たなって思いますし、紅葉に色が付いたら秋ですし、木枯らしが吹いたら冬です。僕思ったんですけど、四季って、ざっくり区分の四つでいいんですかね?そろそろ、もっと細分化したのを定着させてもいいかなって思うんです。細切れにした方が、奥歯でゆっくりと味わえますからね。」

「・・・そうだな。」

「そういえば、そろそろ冷蔵庫が寂しいですから、買い物に出かけようと思ってて。でも今月はいつもよりずっと、厳しい財政状況ですね。色々ありましたから。実は、僕、ずっと前からキャベツ貯金に挑戦したいと思ってるんですけど、肝心のキャベツがないんですよね。そこに納めるお金もないですから、まずはキャベツを手に入れて、枯らさない薬を巻いて、庫内温度を最適に保ちつつ、お金が工面できるのを待ってもらうしかないかなと思うんです。」

「・・・そうだな。」

「そうそう、お金の話で思い出しましたけれど、これだけの本があれば、どこかに、埋蔵金の在処の書かれた本が眠っているかもしれません。どことなく、ロマンを感じますよね。ところで埋蔵金って、お金そのものを地面に埋めるんですかね?もしも今の紙幣を埋めたら、分解されて土に還ってしまったり、水に浸食されてよれよれになったりするのかもしれません。掘り起こしたときに小判なら感激しますけど、力ない諭吉さんが涙を流しているところだったら、もらい泣きしてしまうかも知れないです。」

「・・・そうだな。」

黒蝶堂の穏やかな昼下がり、堂長である黒川はちは帳簿を睨んでいる。同居人の語りは、右から左の傍線状態で、TV番組の間に流れるCMよりも耳に留めていなかった。彼が幾度目かの相づちを打ったとたん、ボーリングの球をレーンに投げ込んだときのような、重量感のある低音が響いた。しばし続いた沈黙を不審に感じたはちは、重たい腰をあげる。いやな予感しかしなかった。

台所を覗く。すると、同居人は仰向けで倒れていた。手足を一つも動かさず、蒼い瞳だけをはちへと向ける。「酸素が足りなくなっちゃいました」と力なく笑う彼に、「・・・ペース配分が、なってねぇんだよ」と、忠告を与えた。

「ただ僕は、はちにも知ってもらいたいんですよ。」

「・・・それは違うな。お前は、自分が喋りたいだけだ。」

「ばれましたか。」

余裕を持たせて悪戯めかすしろに、はちはため息を吐く。
浅い呼吸を繰り返す彼の脇に居座り、一つの提案をしてみる。

「・・・ここに、人形を置いておくか。」

頷くだけの簡単な作りの奴だが、人形ってことを見抜けるかテストしてみてもいいかもしれないな。ただ相づちがほしいだけなのなら、かかしだって事足りるはずだと肩をすくめる。

「さすがに気が付きますよ!」

憤慨するしろが、拳を突き上げた。間一髪で避け、眼鏡の位置を調整する。

「・・・どうだろうな?」

鼻から息を吐けば、

「そこまで言うのなら、ぼくはその子とタッグをくんで、世界を征服して見せましょう。」

苦しそうに空気を求める口とは裏腹に、しろの目はキラキラと輝いていた。
まるで、目だけに生気が集まっているかのごとくだ。

「・・・それは、やめとけ。」

「ほら、そうなんですよ。」

指示語飛び交う会話劇を惰性的に繰り広げた共謀者は胸を張る。

「はち、自分の命が惜しかったら、僕の話は聞いておいた方がよいですよ。」

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秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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