【小話】みせかけの赤色【更新】

「・・・今日はエイプリルフールだな。」

「それは、嘘ですね。」

「・・・嘘じゃねぇよ。事実だろ。」

黒川はちは新年度を迎えたらしい、白黒の無機質な卓上カレンダーを指さした。4月の初日は、1年に1度、嘘をいっても許される日・・・だったかと、自問自答する。この日以外で嘘を言ったことがないという人間も、そうそういないだろうが。

相対する青年は自らの顔を両手で覆う。

「信じませんよ、僕は。」

彼は、声をこもらせた。指の隙間から、蒼い瞳がはちを捉えては逸らされた。

先制を仕掛けたつもりであったはちは、内心やられたと呻いている。
昨夜布団に入っていたときのこと、彼のために用意されているような今日のイベントに、彼が乗じて一騒ぎ起こす前の段階で、さらっと世間話をするように話を流せば、騒ぎの出鼻をくじくことが出来ると思いついたのだ。

だが、動き出した針は逆さまには進んでくれやしない。

「嘘だろ!お前は昨日から、そわそわ落ち着かねぇ感じだったじゃねぇか!」

「嘘ですよ!それこそ、今日のために準備してきた布石というやつですよ!」

「嘘だろ!いつも突発的なお前が、用意周到な仕込みをするわけがねぇよ!」

「嘘ですよ!普段の僕は今日のために、そういう風に振舞っていたんです!」

はちは、ため息を吐いた。
気が付いたら、彼のペースに巻き込まれていて、気が付いたら、イベントに飲み込まれている自分がいる。

その後も、あれやこれやと衝突しては、嘘談義が続いた。
嘘も誠もまぜこぜになり、いつも以上に実りのないやりとりが続くものだから、はちは疲れ果てていた。

「・・・真実は変わらねぇのに、同じ物を見て違うことを思うから、意固地になって主張するんだろ。」

答えがわかってるのに言い争うなんざ、面倒以外の何物でもねぇなと、肩をすくめる。
すると、

「見えている物だけが真実とは、限らないんですよ。」

得意げなしろの細い指が、窓辺より射し込む夕日に照らされた机を指した。今朝方確認した、シンプルなカレンダーがある。はちはそこで初めて、引っかかりを覚えた違和感の正体を掴むことになった。

「月も日も曜日も、今年と全く同じです。」

未来の予定表はどこにも売られてませんでしたから、ゆりちゃんと協力して作りましたと、人差し指を立てる笑顔には、一点の曇りもない。

「・・・手の込んだことを、しやがってよ。」

そういや昨日まで、席にカレンダーなんざ置いてなかったじゃねぇかと、はちは自分の目を両手でこすった。

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秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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