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【小話】氷の真相【更新】

「これはもう、裁判しかないですよ!」

「・・・どこにそんな予算があるんだ?」

朝方、同居人の絶叫で目覚めた黒川はちは、たいそう不機嫌であった。洗面所で水を浴びているときも、背後で騒いでいるし、自室で着替えた後、朝食を摂っている間、黒蝶堂のカーテンを開けるときに至ってまで、彼の怒りは収まることを知らなかった。小規模な噴火が、継続して発生するような感情の発露の仕方である。

堂長席に座ったはちの前で、彼は机に手を突き、声高に主張した。

「ぼくのアイスを食べたのは、はちしか考えられないです。」

「・・・この時期にアイスなんざ、食うわけがねぇだろうが。」

「炬燵にアイスは、至高の一品ですよ!」

「それは、自称変温動物が言う台詞か?」

はちは深いため息を吐いた。床に滞留し、靴下まで汚れそうな程、質量のある呼気である。

「・・・第三者に理解してもらおうなんざ、みじんも思わねぇけどよ。」

裁判でたとえるなら、氷菓を食べた人物について、原告のしろと被告のはちが争っている、という図式になる。欠如しているものについて、しろは続ける。

「裁判長はゆりちゃんです。全てを知り尽くした僕らの女神ですよ。」

お互い立ち上がり、詰め寄って口論していた彼らの間にすっと割り込んだのは、赤いリボンを揺らした少女であった。音もなく現れた彼女は、「報酬はちょこれーとでいいわ」と告げた。さあ、どちらから始めるかしらとの合図に、先に反応したのははちである。

「・・・本当のことなんざ、証明できねぇだろ。」

立証されるのは、正式な妥協点がこの世には存在するってことだけだと、被告は諦観する。そんな彼に対し、裁判長はその黒目がちの目を向け、

「真実は、権力者や時間によって溶かされるわ。」

残滓を繋いで過去とするのは、昔から繰り返されてきたことだから、貴方が嘆く必要はないわと、涼やかに声を鳴らした。被告は首筋を撫ぜる。

「・・・オレは人の物を奪ってまで、空腹を満たそうとは思わねぇよ。」

それに、貧乏は今に始まったことじゃねぇしなと、肩をすくめる。
すると、

「そうね、貴方が犯人だということね。」

「そうだ、まさにオレが犯人だ・・・って。」

唐突に振り下ろされた”正義の判決”に、被告は動揺を隠せなかった。

こいつ、オレの話を聞いていたのか?
耳を疑い、左右に振っていた首を止め、伏していた瞳を彼女に寄せた。

少女の手には、とある会社のロゴが大きく載った板チョコが3枚載せられていた。さらに積み重ねるのは、他でもない原告であった。自分で自分を擁護するしかない被告は、あまりの現実に声を上げる。

「その金でアイスを買えばいいだろうが!」

裁判じゃねぇよこんなのは!と、つっこまざるを得ないはちは、しろに指を突きつけた。
原告、もとい白い青年は、指を左右に揺らした。「知っていますか?」と前置きして、彼は言う。

「真実は時に、お金で買えちゃうんです。」

覚えていた方がいいかも知れませんねと、悪戯めかして笑った。

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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

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説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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