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【小話】清算の青【更新】

「化けの皮を剥いでやる。」

相対する少女は、握る札に皺を寄せた。静かで青い怒りの気配に、顔色を変えない妖怪が得物を構えた。柄の先の巨大な三日月が鈍く光る。火花が散り、異形と戦っていた少女の頬に、木の枝で細く赤が走る。それでもひるむことなく猛進し、見事、妖怪の額に除霊の札を貼ることに成功した。
異形は樹木の近くに倒れ込んだ。まだ油断はできない。じりじりと、距離を詰める。退治に成功すれば、今までの苦悩の刻がすべて清算される、という訳ではない。それでも、「これで終わりにする」という強い決意は、こんこんとわき出る泉のように終わりがなく、逃げようともしない妖怪を前に、舌なめずりすら相応しい程の昂揚を引き出した。

万事上手くいくはずだった。
だが、彼女は、虚を突かれた。次いで、後頭部を突かれた。
”札を面ごと”剥ぎ捨てた妖怪は、首を左右に鳴らし、次いで、踵を鳴らした。

「成仏させるのは、あたしの仕事じゃないんだぞ。」

被り物の下より現れた”少女”は言うとすぐ、調子のずれた鼻歌を歌いながら、自称退魔師を麻縄で縛り始めた。気を失っているからか、彼女の体は外見以上の質量を帯びている。太巻きの完成したところで、深見ヶ原墓地の中央広場にぞんざいに転がした。

異形と騒がれるのは、これが最初ではない。
「もうずいぶん前から、ここで遊んでいるんだぞ。」と、視線は少女を見下ろしたままに呟いた。

後始末は、堂長に頼むか。
彼女は手持ちの卒塔婆を背負い、思案する。頼りないが、先代の面影のある眼鏡の若者だ。彼の輪郭を思い描いていたところ、

「もう来ているわ。」

樹木の裏側から、書物を片手に広げた彼女が現れた。



少女は瞼をふるわせ、ゆるゆると目覚めた。年代物の空を、書棚の柱が支えている。記憶にない天井だ。

そして悟る。右腕で、顔の上半分を覆った。

最後の力を振り絞り、妖怪の心臓に一突きすれば、仕事は完遂のはずだった。ぐったりと動かなくなった妖怪を見下ろす自分の姿が、水彩絵の具を溶かした水のように歪む。後悔の味は覚えているのに、情景がはっきりと思い出せず、もやもやとした気持ちが残る。

「最近、夢見が悪いんでしょう?」

ふと、遠くから声がした。声は続く。

「たとえば空へ落ちる夢とか、事故に遭う夢とか、親友が死ぬ夢とか。」

どことなく弾むような声音は、内容の割に悪意を感じさせない。少女は、答えることができなかった。指先までが柔いしびれを帯び、動かせなかった。

「・・・父親のせいだと思っているんだろ?」

今度は、近くから声がした。

「どうして、それを?」

口を動かしたくても、やはり叶わない。そうだ、大切な札はどこにいったのだろう。あれがあれば、いつかは勝利を、そして地続きの平和を得られる。無ければとても不安で、夜も眠れないだろう。

焼けるような喉が、少しだけ潤ってきた。大きな声は出せない。唇を噛み、一息で言う。

「死神を退治しに、墓場に行ったのに。」

「・・・あの場所にはいねぇよ。」

平坦な声はすれど、姿は見えない。そして、自分は見抜かれている。

もしやここが、死後の世界なのかもしれない。あのとき自分は、本当の意味で負けたのかもしれない。

だとしたら、自分には探さなければならない人間がいる。

少女は立ち上がると、強い眼差しと共に、彼を探すため店を出ていった。

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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

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説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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