【小話】背中合わせの隣人【更新】

しろとの冷戦が勃発したのは、少し前のことだ。

思い返せば、「ポップ広告なるものを作ってみましょう!」とのしろの提案に賛同したのがきっかけだ。
黒蝶堂に並ぶ書物には、値札もなければ帯もない。出会いを「偶然」という形にこだわって来堂する客人たちに、商品たちは自分をアピールすることもなく、人見知りの子どものように黙って書棚に収まっているだけだ。だから気の利いた指針があれば、興味を覚えてくれる可能性が高くなる。

・・・という、大型書店ではとうの昔から採用されている商売戦術をやってみようという話になった。

面倒だが、売り上げが伸びるかもしれない。その妥協点で、とりあえず数冊を試してみようとなった。
だが、うまくはいかなかった。彼と目的は同じであったが、手段は全く違ったからだ。そして、お互いが譲らずに、いつものように口論になった。

ため息をつき、堂長席に積み上がった書物を見上げる。量だけは十分で、選択肢は多い。無作為に選んだ作品を、食指の動きそうな言葉で宣伝しなければならない。センスの必要な作業だなと、今度は引き出しを開ける。
そこには裏表紙に畳まれた原稿用紙の束が貼り付けられた、一冊の本がある。
先ほどのやりとりがよみがえった。

「・・・元の作品よりも、長くなってんじゃねぇか。」

「少しの言葉じゃ、全然語り尽くせないんですよ。」

「・・・それは、ポップ広告とは違うんじゃねぇのか?」

このやりとりが何故、あんな口論になったのか、過去の自分を思い返すも要因がわからない。
気を取り直して、目の前の作品に挑むこととした。

黒蝶堂で取り扱っているとしても、「作品についてすぐに思い出せるか?」と問われれば、答えはNOである。ぺらぺらとめくって、言葉を探っていく。センセーショナルすぎず、かつ、人の目を引く文句を。
だが、めくれどめくれど、記憶の中からその本についての欠片を見つけることができない。仕方がないと、最初から流し読みをするつもりで1ページ目を開いた。冒頭の言葉が、暴投の直球となって腹部にめりこんだ。

「他人は変わりません。」

「・・・そうだな。」

異論はない。浮かぶ隣人の顔に、「変化なし」「ただし、変人である」の注意書きを書き添えた。1枚進む。目を疑った。

「ずっと一緒にいるのなら話は別ですが。」

「・・・雲行きが怪しいな。」

同意は、すぐに撤回された。

そもそも「他人」という呼称は、自分たちには相応しくないのかもしれない。実際の距離なら、ずいぶん前の段階から、手を伸ばせば殴りあえるほどの間隔で推移している。しかし、彼と自分とを「同じだ」と感じたことが今までの経験上、極端に少ない。彼とは、もしかしたら、初めて店に来てくれた客よりも「わかりあえない」のかもしれない。どちらもお互いに左右されず、我が儘なまま年を重ねてきた。むしろ違いを認識することで、自分を見つけてきたと言っても言い過ぎではない。

「・・・って、どういう意味だよ。」

自分の考察に、うすら笑いが出た。
外見と行動と言葉と思考回路のどれをとっても、やはり、類似しているなとは思えない。思考を止め、集中することにする。

著者の主張を簡単に拾い上げる。
人間は環境によって影響を受け、その人らしさを作っていく。仮にそれが2人だとしたら、同様の経験を経ることによって、ベストだと思われる道を共有し、その標識に従ってお互いに歩み寄る。すると、一つの細い路地が形作られる。それが正しいかどうかは、そこを歩く者が相互に保証しあうことになり、それが地獄への道だとしても、お互いが牽制しあっているため、歩き出したら方向転換は難しい、と言うことらしい。

「許しましょう、相手を。」

そんな言葉で、すっきりとまとめられた本を閉じ、表紙を拭いた。次いでボールペンと用紙を片づけ、残りの書物を腕に載せた。

「・・・重要事項が常時太字になってたら、こんな本も読むのが楽になるのによ。」

そう言うと、”ポップ広告の作り方と魅せ方”という、色あせた背表紙の隣に、それらをすべて並べた。

幅広の空を飛びゆく隣人でも、探しに行こう。

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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

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説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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