【小話】ことばかず【更新】

外は春の雨だ。昼間であるが、ただでさえ薄暗い黒蝶堂に電気を灯す。在庫を確認するため、席を立った。記憶にある棚へ移動する。しかし、目当ての商品は見当たらない。

「失った言葉は、未来永劫消滅する。」

ふっと、頭上から声が降ってきた。
見上げると、小さな靴裏が揺れていた。

「・・・ここにあった本を知らねぇか?」

投げかければ、黒目がちの瞳が降ってきた。

「貴方は、必ず見つけるわ。」

はちはため息を吐く。どうやら、彼女の”未来予測”が始まっているらしい。信じられねぇけどなと、こめかみを押さえる。

理解はできない。
だが、彼女の予言が外れたことは、今まで一度もないのであった。

地上に降りてきた彼女に、堂長席の書物を示す。彼女は再度「失った言葉は、未来永劫消滅する。」と平坦に告げた。はちは首を捻る。

はて、どこかで聞いた・・・もとい、見たような言葉であるのだが。

「さっきまで読んでいたじゃないですか。」

どこからともなく、同居人のしろが現れた。彼の人差し指を立てる姿を見た途端、思考と記憶が結びついた。そうだ。

彼女が口にしたのはいずれも、先程まで目を通し、在庫を探そうと思い立った、平凡でノスタルジックな物語の中で用いられていた。現実に打ちのめされた主人公を、空往く鳥が叱咤するシーンの台詞だ。
その後どうなったのかは記憶にない。

「・・・同じ文が、著者も時代も違う作品内で被るってことは、稀にある話だろ。」

「そうね。」

少女は黒髪を揺らす。じっと見つめられると、逃げられなくなるような、引力を感じる瞳だ。彼女は続ける。

「貴方が知っているのは、この作品でだけ。ほかには368の書物で使われているわ。」

「さ、さんびゃくろくじゅうはち・・・?」

「それらの文章を読み解いた人数は、今日に限って言えば・・・」

頬を痙攣させるはちに対し、まったくの無表情で彼女は予測をする。
その小さな体が、突然、大きく揺すられた。

「そんなことまで、わかるんですか?」

彼女の隣でまばゆく笑むしろは、彼女の肩に手を載せ、瞳を正面から見据えた。奥にある扉の鍵穴を観察し、合い鍵を作り出そうとしているかのような食い入りっぷりであった。遠慮のない彼に、少女は続ける。

「未来を読むことは、そういうことよ。」

「・・・わけがわかんねぇよ。出鱈目だろ。」

期待に満ちた輝く瞳を前に、少女の瞳は知的に輝く。その様子に、はちの瞳は更に平たく細まった。

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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

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説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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