【小話】血色の遮断【更新】

「本を読む権利が人にあるなら、読まれる側にも権利がある!」

シュプレヒコールが繰り返され、鉢巻きを巻いた軍服の男が力強く拳を突き上げてきた。胸の勲章たちが怪しく光る。背後に控えるは、代表者を盛り立てる二等兵の部下たちで、彼らは同様の鉢巻きと、形状の違う軍服をまとっていた。

「・・・白昼夢か」

額を小突く。が、本体の自分には届かなかったようだ。手首を返し頁を閉じようとすると、彼らは一糸乱れぬ動作で、合間に銃剣を挟み、遮断を遮った。隙間から顔を覗かせるトップとおぼしき男の目は、ぎらぎらと血走っている。這い出て来た、手袋で覆われた彼の手が上下に空を切れば、自らの横っ面、髪の毛の束が舞い上がり、散っていくのを感じた。

彼らは、口々に言う。

「共通の敵が存在すれば、他人は身内となる。」

「我々は仲間を見捨てない。」

「敵は、君たちすべてだ。」

「ここに開戦を宣言する。」

抗議する声は一つのデモと化し、耳を痛めつけてくる。耳の穴に指を入れても、その声はとどまらない。少しだけくぐもった音の世界で

「そもそも、てめぇらの主張は”抗議”として成立していないだろ?」

と、彼らへ抗議したくなる気持ちが、ふつふつと沸き始める。だが大抵の場合、内心を素直に吐露したところで受け入れられることは少なく、感情には、相手に得心を与えるような服を着させなければならない。ぐっとこらえ、珍獣の寝姿を観察するような気分で衣服を選ぶ。

「・・・最初から、認めねぇなんて言ってねぇだろ。」

権利を自慢したいのなら、好きなだけ叫べばいい。既に所持しているのだから、必要ならば、一筆書いてやってもいいとの、過剰とすら思える提案は、唾ごと飲み込んだ。

机上の代表者が一歩進み出て、手持ちの書類を引き伸ばした。上部には、”契約書”の文字がある。

「権利を行使することが当たり前になって、私逹の努力が忘れられるおそれがある。」

「・・・ならそれを、”権利書”に書き換えて、文字にして並べればいいじゃねぇか。」

はちは合点を得る。

あぁこれは、そういう書物だった。

ようやく本体の自分が覚醒し始めたのだと知り、安堵の気持ちに包まれた。
呼応するように、二等兵の誰かが、小さく息を吐き、かみしめるように言葉を紡ぎ出す。

「我々を認識できる人間を育てるべきか。」

途端、彼らは煙が空に溶けるように、隊列ごとに順序立てて見えなくなっていった。
今度こそ書物を閉じ、上から抑え、全体重をかけ、バンドを巻いて鍵をかけた。

また妙なものを遺してくれたものだと、壁に残されたつまようじの先ほどの小さな銃痕に、冷や汗が流れた。

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秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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