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【小話】いどけいど【更新】

瞳を覗いてくる目から顔を背けると、頬を両手で挟まれ、固定された。
邪魔だと手で払ってみせると、「じっとしていてください!」と、ますますまじまじと見つめられた。「・・・いったい、なんだっての。」眉を寄せて問えば、「そうそう、そうですよ!」と、目尻を触り、左右に引っ張っていたしろは離れていき、人差し指を立てた。

「洗面所が無くなっちゃってたんですよ。」

途端、発する言葉が雲隠れした。

まさかなと思いつつ、様子を見に行ったところ、想像を絶する光景・・・という程の被害は認められなかった。まったく、大げさなやつだ。ただ洗面所へ続く廊下で途中で崩落しており、ガラスが踏みつけられ、近くに割れた洗面器が転がっていただけじゃないか。

ただ、それだけのことだ。

「ざまあみろ、人間風情が!」

待ちかまえていたのは、赤と青のゴーグルが、壊れた窓から射し込む光に照らされた少年であった。
眩しい程に歪んだ口元で、

「水がなければ、人間はこの世からすべていなくなる!」

高らかに宣言した。

彼の背後に、赤いリボンが揺れるのが見えた。



「・・・なんで、井戸掘りなんざしなきゃなんねぇんだ。」

「そこの無鉄砲で阿呆極まる、零落童子に聞いて頂戴。」

「その名で呼ぶな!」

倉庫でシャベルを見つけ、運び出してくると、燻製ハムのように縛られた少年が、縁側に転がされていた。少年は芋虫のように蠢き、牙を剥き、ゆりをぎりぎりと睨みつけている。対照的に、彼女はいつも通りの涼しい表情で、「帰りたければ、協力して頂戴。」と、彼を見下ろした。

そういえば、と思い出す。

以前出会ったとき、少年は”水に溶ける”という手品を、頼んでもいないのに披露してくれたのであった。その特技を駆使すれば、彼は水が存在していれば、どこにでも行ける、のかもしれない。
逆を言えば、水がなければ彼は逃げ場がないと同義ということになり、

「・・・つまり、帰れない?」

「協力してくれるわね?」

少しの間を置いて、カコはしぶしぶ頷いた。瞬間、縄が意志を持たされたかのように、しゅるりと解けていった。彼は膝をはたき、手首を回し立ち上がると、ポケットから何かを取り出した。

「まさか、その二本の神器は・・・!」

しろの声を演技じみているなと感じつつ、それでも目をこすらずにはいられない。
絵に描いたような、ダウジングマシーンを手に、少年は「こういうのが好きなんだろ?」と皮肉めかした。
庭をあちらこちら廻った彼は、

「場所がひずんでる。」

瞼に力を込め、「水脈がわからなくなってる」と呟いた。次いで、

「まるで誰かの性格のようだ。」

と言った途端、少年の首が歪んだ。

「・・・クワバラクワバラ、ってか。」

効果はないと知っているが、一応、唱えておいた。

桜の花びら散る、明るい世界に不自然なゆがみを残したまま、歩き回っていたカコは、「見つけた」と、一点で立ち止まった。どうせなら、首の正しい位置も見つけてくれと言いたくなる。一瞬だけ伸び上がる首に、気のせいだと目を背ける。

そして、やっとシャベルの出番、ということになった。身体全体で、地表に挑み始めた。

作業は長かった。
しかし、結局のところ、いくら掘り起こしたところで水の気配なぞ、微塵も見いだせなかった。第一、素人に井戸を作らせるという前提が間違っているのだ。それなのに力を入れて作業をしたものだから、息が上がっていた。
酸素が足りない。ぜえぜえ喘いでいると、隣から湯飲みが差し出された。

「・・・悪ぃな。」

すると、ぼんやりとした様子で、しろはあごに指を当てた。

「そういえば昔、このあたりに井戸がありましたよね。」

「「・・・どこに?!」」

しろに案内された場所には、見覚えのあるような無いような、小さな井戸らしき空間があった。カコが指を舞わせれば、古びたポンプが勝手に動き出し、汲み上げられた水が徐々に透明度を取り戻していった。

しろは微笑む。

記憶が確かでよかったです、と。

「人間もたまにはいいでしょう?」

詰め寄られたカコは、ついとそっぽを向いた。向いた方角で、座って頁をめくっていた少女と視線がかちあったようで、

「貴方は生かされているのよ。」

「理解できるかしら?」と、ゆりは首を傾け、挑発するように彼を見やった。
案の定、煽られたカコは額に青筋を浮かべる。

「この性悪少女風風情が!」

彼は再度、指を舞わせた。
汲み上げたばかりの水が、数十本の鉄砲水となって飛び交い始める。

暖かくなってきたとは言え、まだ春先は寒い。突然降りかかってきた冷水で、身をもって思い知ることになった。

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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

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説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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