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【小話】疑惑の第一発見者【更新】

「調子が優れないんです。」

同居人の告白に、真っ先に去来したのは「罠かもしれない」との予感であった。だが言われてみれば、ただでさえ色の白い肌が普段以上に青ざめている・・・ように、見えなくもない。覇気がないとはこのことなのかと納得しそうになる程元気が無く、冴え冴えとした水晶を思わせる瞳だけが生き生きしているかのようだ。

「・・・じっとしてろ。」

「はぁい」と間の抜けた返事をし、彼はふらつく足取りで奥間に消えていった。その背中は、彼の体調そのものを映し出しているように見えた。



陽が傾き、店じまいしてもいいだろうと、表の扉を閉めるため立ち上がった。歩き出し、鍵を掛け、カーテンを閉めたところでふと思う。そういえば、昼食後から隣人の姿を見かけていない。物音は一つもしなかった。

本当に、具合が悪いのか。

部屋で眠っているといいのだが、未だ解明されていない生態を持つ彼のことだ。布団の上で冷たくなっているという可能性もゼロではない。

「・・・第一発見者になるのは、ごめんだな。」

思考が悶々と絡んできた。その糸を断ち切るため、堂長席を離れ、彼の部屋へ足を向けた。

黒蝶堂に隣接する居住スペースの2階、しろの部屋の前で、腕を組む。

「まさか、本当に調子がくすぶっているのか?」

もしもの時は、救急車を呼ぶしかない。生唾を飲み込む。
いやな予感を助長するかのように、黒蝶堂にしろが転がり込んできた記憶がよみがえる。遠い昔の出来事のようでも、昨日の出来事のようでもある。
もう考えても仕方がない。意を決し、ええい、ままよと、戸を開けた。

足下に、球体が落ちていた。まずいと思ったときには体勢を崩し、地へと引きずり込まれていた。とっさに、頭を守ろうと動いた腕が、天井付近から自律的に伸びてきたロープに巻き取られ、手首の位置で堅く結ばれる。かと思うと、体全体が一挙に引き上げられた。空中に、宙ぶらりんの状態になり、脳が混乱に陥った。
下界では、最初に踏みつけた球体が転がっていき、薄い板にぶつかっていた。卵ほどの大きさの、純度の高いビー玉は、板を倒し、次の板に寄りかからせて出来た土台の上を滑り、更に次の板を順々に倒していく。本で作られた山を幾重も越え、小さな観覧車を回し、水面を走り、歯車を動かした後、ぽとりと穴に吸い込まれた。消えた玉と入れ替わるように、親指の先くらいの大きさの白い旗が、しゅるしゅると音を立てて掲げられた。その旗が完全に上がりきり、紐がピンと張られると、今度はヤカンの湯が沸いたときと似た、高音の合図が鳴った。白い煙が充満し始める。空腹を刺激する匂いに、柔らかい記憶がよみがえった。

湯気の向こうで、人差し指を立てる彼がいた。

「騙されましたね!」

「・・・あぁ、見事にな。」

もはやため息をつく以外に、この状況を突破できる方法が見あたらなかった。口にすることはないが、元気で楽しそうな、いつも通りの彼の様子に、少しだけ安堵を覚えた。

「・・・これを作るために昼から籠もってたのか?」

問いかけると、

「嘘は言ってませんよ。調整していたんですから。」

だけど、連日の夜更かしは体に悪いですねと、彼は欠伸を隠すことなく、猫のように体を伸ばした。

「腹が減っては戦はできませんからね。」


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テーマ : オリジナル小説
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説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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