【小話】鈍金の円和【更新】

「はち、知ってますか?」

四方八方に転がった5円玉を拾い上げている最中、同居人が話しかけてきた。誰のせいでこんなことになったんだと、困惑と憤慨が入り交じり、結果として諦めに似た心を向ければ、「覗いている」彼と目が合った。

「これ、穴が空いてるんですよ。」

「・・・この国に住んでりゃ、気がつくことだ。」

手元に太めの糸を握り、拾い上げた硬貨を穴に通す作業に移行する。転がった硬貨は100を下らないだろう。隣人が一体どこから、これだけの、しかも5円玉だけをかき集めてきたのか甚だ疑問である。

「もしかしたら、近い将来、カードだけの世界になるかもしれないですよ。」

同じく、針に糸を通す要領で硬貨を片づけていた彼は、左手の人差し指を立てた。手から離れた糸が下を向き、再度、硬貨は床に散らばった。彼は拾うことも、目を向けることもせず、熱弁を振るう。仕方なく、腕を伸ばし、硬貨を集めた。

「通貨を作る予算が無くなって、どんどん便利になって、実際に紙幣や硬貨を使ったことのある人々が少なくなるかもしれないです。」

「・・・そんなバカな。」

「昔は地域によっては、物々交換をしていたんですよね?」

「・・・それとこれとは、話が別だろ?」

つうか、ただの通貨だろと、眉をひそめる。彼の想像での経済はどうなっているのだろうか。
当たり前にあるものが無くなることを想像するだけで頭が痛くなるのだから、そのまま思考を放棄した。

「円を作って、縁を創るんですよ。」

彼との会話に標識なんてものはないから、いつだって脱線する。今回もご多分に漏れず・・・と、思っていた矢先、外の世界からちゃりんと音が鳴り響いてきた。顔を向けると、扉の向こう、両手を合わせて頭を垂れる2人組がいた。

「賽銭箱を、黒蝶堂の入り口に設置してみたんです。」

おじいちゃんをイメージした像を置いてみたら、なおのこと効果があってですねと、しろは無邪気に青い目を細めた。何やってんだと、慌てて片づけに行けば、参拝者は「よろしくお願いしますね」と、茶化した語尾にふさわしくない真剣そのものの瞳でそこに居て、返す言葉もなかった。

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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

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説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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