【小話】若草色の噂話【更新】

「貴方はもしかして、料理人の方?」

「・・・いや、残念ながら違うっスよ。」

黒蝶堂は、呼び出されていた。待ち合わせの場所で相手方を待っていると、十字路の端から、狭い道路に相応しくない、赤い光沢を放つ左ハンドルが切り込んできた。待ち合わせ場所の空き地にスピードを保ったまま進入すると、間もなく、低く唸っていたエンジン音が沈黙した。扉が開くと、若草色のフォーマルスーツが颯爽と地に降り立った。高いヒールの彼女はサングラスを外すと、辺りを見渡し、まっすぐこちらへと向かってきた。

「ここに、新しい老舗のお店が開店すると耳にしたものだから。」

「・・・新しい、老舗の店?」

「まだみたいだわね。」

色の濃い口紅を見せつけるように動かした彼女は、再度車に乗り込んだ。そして、とどまらない風のように、走り去っていった。

「・・・オレのどこが、料理人なんだ?」

「修行中の若手だと思ったんですよ。」

同じく待機していた黒蝶堂の料理人は、顎に指をかけた。

「噂はありますね。」

でも、本当なんですかね?料理人・しろは、首を傾げる。

「料亭にはならないわ。」

その隣、手元で書物を広げている少女・ゆりが応える。

「何になるんですか?」

「・・・まだ売却されてねぇんだろ?」

空き地の道路沿いには、”売地”と主張する看板が立っていた。
そこに目をやるのと、彼女の

「ここの子に聞けばいいわ。」

との提案を耳にしたのは、ほぼ同じタイミングであった。

「貴方の見立てを、堂長に教えて頂戴。」

看板の脇、座り込む少年がいた。

「・・・いつのまに?」

「堂長なの?僕を助けて。行き場のない僕の心を。」

「ちょ、ちょっとまて。てめぇは?」

問いかけるが、膝下に抱きついてきた少年は顔を上げることもなく、ただ腕に力を込め、弱々しく言葉を発するだけだ。

「ここに建つ会社はいつも、苦しい事件を起こして、なくなっていく。」

「苦しい事件と言うのは、なんですか?」

少年は青白い顔をしろへと向けた。

「色々。本当に、色々あったんだ。」

不幸が続くばかりだから、いっそ忘れられた方がいいのに。
短く吐き出すように言うと、彼は

「事件が起きる前に、僕が潰すんだ。」

口角をつり上げ、温度の下がった声音で呟いた。

気がつくと、空き地の中央に転がっていた。目の先には、心の健康によろしくない制服がいた。

「君たちが?」

上体を起こす。白と黒の小型車が、わき道に駐車されている。なんのことか分からず、きょろきょろと目を働かせれば、そこには真っ二つに割れた看板が、同じく転がっていた。

「・・・一体、何のために?」

青い制服は「わけありの土地」との表現を使って、「ここでは不可解な事象が多発している」と説明した。はなから自分たちを疑っているわけではないようで、任務を淡々とこなしているだけのようであった。ゆえに思う。

「・・・ばかばかしい。」

しかしもちろん口には出さず、「さぁ、わからないっスね」と軽く応じた。

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説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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