【小話】変幻自在の箱の中【更新】

うたた寝していたらしい。目覚めたら、堂長席の椅子に、上半身を縛り付けられていた。客人のいない、昼下がりの黒蝶堂で一人、ぐるぐるまきにされている。

「・・・どういうことだ?」

戸惑いを口にしつつも、理由はだいたい察しがついていた。

「僕主催の、ゆりちゃん全面協力です。」

机を挟んで反対側に立つ白い青年が、笑顔で人差し指を立てる。案の定、というやつだ。
机には、中央に1から3の数字が書き込まれた、一羽の兎を入れ込むのにちょうど良さそうなサイズの直方体が一つずつ置かれてあった。

「効果的な目の覚まし方を模索してみたんですよ。」

さぁどの箱でもいいですよ、選んでみてください。しろの言葉に、いやな予感しかしなかったが、手足の自由を奪われている今、選択する以外に道はない。心を決め、適当に選んだ。すると、料理の熱を逃がさないために覆うカバーを取り払うがごとく、箱は宙へ浮いた。箱の下の面は最初から切り取られていたらしく、そこには物だけが残された。

「・・・水、か?」

視線を注ぐ先には、銀色のボウルいっぱいに注がれた透明の液体が水面を揺らしていた。

「はい、水ですね!」

しろはそれを、どこから取り出したのか竹で出来た水鉄砲に装填し、躊躇の欠片もなくこちらに向けて発射してきた。手際の良さに唖然とするが、反射的に顔を背けると運の悪いことに、耳に入り込んできた。

「おい、いきなりなにしやがるんだ!」

「あ、ほかの番号も試してみますか?」

縄をほどかれ、けんけんと飛び跳ねると、穴に入った水が落下していく感覚があった。しろの言葉に、残された開かれていない箱を見やる。耳を近づけてみると、一つは無音で、一つはなにやら、かさかさと内部をかきむしっているような気配がする。ぞぞぞと、背中を這い上がってくるのは悪寒か、寒気か。ふっと宙を見上げれば、共催者の少女がこちらを見ていた。

書棚の上で、少女は述べる。

「”寝耳に水”の、延長戦上よ。」

「水と似た物を、探したんです。」

彼らの言葉の意図が分からず、心中、”水”と十回唱えてみる。
そうして思い当たった発想を、

「いや、まさか。」

即座に否定し、打ち消す。
一方で、箱を開けて中身を確認する勇気も出ず、

「・・・まさか、動物じゃねぇよな?」

ただただ、否定されることを待ち続けた。
しかし、しろはにこにこと笑うだけで、ゆりは人形のようにそこに座っているだけであった。

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秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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