スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

【小話】混濁階層【更新】

「見晴らしが、とてもいいですよ。」

「・・・危ねぇから、降りろってんだ。」

黒蝶堂の天井高は、居住用の家屋よりもずいぶんと高めだ。書棚の上に少女が座れるほどのスペースもある。書棚に収まりきらない書物が足下に山積みになってはいるが、書棚そのものも背が高い。そして、高い位置に存在する本を手に取るため、木製の脚立が隅に置かれている。
氷山しろは飴色のそれを組立て、堂長席の正面に運び出し、どたばたと駆け上がった。ぎしぎしと軋む音に、堂長席の黒川はちは眉をひそめる。中段にて、しろは足を止める。はちが目をやれば、彼は鼻をひつくかせていた。

「ここは甘い匂いがしますね。」

もしかしてと、しろは手すりに掌を繋ぎ、体を空へと投げ出した。脚立がぐらぐらと揺れる。彼は戸惑い無く、伸びきった腕を中央に、体を更に左右へ揺らした。軋むたびに、床板も音を立てるものだから、脚立を押さえに席を立ったはちは老朽化した店の足場が崩れないかとの不安に駆られた。しばらくすると、ブランコを前後に大きく漕ぐように勢いをつけたしろは、タイミング良く空へ飛び出し、身軽に床面へと戻った。頂点まで登り、座ったかと思うと、すぐに地上へと飛び降りてきた。

「・・・いったい、何がしたいんだ?お前は。」

「階層によって、全然匂いが違うんですよ!」

空が飛べたらもっと味わえますのにと脚立を畳んだしろは、突然床に伏せた。這い蹲り、匍匐前進を始める。進行方向のはちは端へと避けた。

「お客さんや憑者さんたちの匂いが混ざってます。」

「・・・お前はどれだけ、鼻がいいんだよ。」

「匂い、ね・・・」と、奥へと消えたしろを見送ったはちは、興味本位で鼻をひくつかせた。期待していたわけではないが、いつもと変わらず埃っぽいだけの空間に、空咳を一つして、顔をしかめた。掃除でもしねぇとなと思い至ったとき、目の前の客人の姿に初めて気が付いた。

「い、いい匂いっスね。」

言いよどんだのが、ますます事態を悪化させた。

客の退堂後、

「・・・なくしたものは、一冊の本より重い、ってか。」

はちは深い深い深いため息をついた。発せられた息は、黒蝶堂の空気に混じり溶けた。

スポンサーサイト

テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

メニュー
twitter
    更新情報配信中
    上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。