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【小話】氷上の違和感【更新】

…なんか、妙なんだよな。

レンズを通して見る世界は、いつもと同じ乱雑な黒蝶堂だ。オリエンタルな文様の施された花瓶が転がり、壁掛けの時計が複数個、思い思いに時間を数え、巻物の類は飴色の傘立てにつっこまれている。片付けても片付かないと、しろが嘆いていたのを思い出す。祖父の代からそうなのだから諦めろと忠告すれば、綺麗にするのが僕の使命ですと、腕まくりをした彼の携えた騒音発生器ならぬゴミ取りマシーンが更に唸り声をあげたのだった。そもそも、この店にいるものとそれ以外とはどちらが多いのだろうかとすら思うほど、黒蝶堂にはガラクタが溢れかえっている。それでも時折ふらりとやってくる客人が、彼らを連れて帰ってくれるから、需要と供給の不可思議さに首をひねることもあるのだが。

それはさておき。

今日は朝から何かがおかしい。頭上や後方から、誰かの視線を感じるのである。見られている感覚は、人間を20年とそこらやってきて身につけた、気配察知能力であり、幼い頃に厄介な同居人が登場し、黒蝶堂に戻ってきて謎の少女の存在が出現したこともあり、より鋭く研ぎ澄まされてきた。今は書棚に少女の姿は無く、同居人も風呂場の掃除をしている。他に客は無く、自分だけの空間である。

にも、かかわらずだ。

視野の有効範囲よりほんの少しだけ外側に、自分以外の何者かが居る。しろの視線は光沢が眩しいから違うし、ゆりの視線は冷ややかな温度がある。あくまでもののたとえだが。今ここに居るやつは違う。居るだけで、指を指してきたりケラケラと笑ったりはしない。佇み、生気の無い瞳で髪の毛の先が揺れるのをじっと見て居る。言うなれば、そんな存在が近くに居る。ありえねぇと思えば思うほど、首筋が伸び、顎が引かれる。

存外詩人ですよね、はちって。

…勝手に人の心を読むなっての。

背後からの声に、肩がびくりとはじかれた。斜め45度で見やれば、キラキラ光る青い瞳とかち合った。あまりに眩しく、手を額に傘を作り、目を細める。本当に、瞳の奥に光源の泉が湧いているかのようだ。青い洞窟内の、白い氷を彷彿とさせた。

はち、心配しなくて大丈夫ですよ!

…誰がなにを心配してるって言うんだ。

右肩が痛くても、大丈夫です!

な…!

何故ばれたのか。起床後から右肩に、異様な重みを感じていた。気のせいだと言い聞かせ、仕草にも出さなかったと言うのに。

僕から降りてもらうよう、お願いしておきますから。

そう言うとしろは上着のポケットから短冊状の紙を取り出し、なにかを書き連ね、額に貼り付けてきた。接着面がむず痒い。

そんな時、客人が現れた。まずいと思ったが時すでに遅く、バッチリ目があってしまった。客人は脇目も振らず駆け寄ってきて、その紙を束でくださいと請願してきた。しろが差し出し、お代を受け取る。去っていく客人の背中を見送り、額の紙を剥ぎ取った。そこに書いてある文字を追い、ため息をついた。なんと非現実的なのか。だがいつの間にか、肩の痛みも謎の視線も消え去っていた。

【了】
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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

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説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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