【小話】魔法のしろい粉【更新】

主の愛用器具と愛用調味料によって、彼の手狭な城は護衛されている。部外者の自分が立ち入る隙は少しもなく、磨かれた銀色に自分の顔が映ることを確認するにとどまる。調理台の奥に立てかけられていた、ビニール袋に入った彼特製の白い粉が、さらさらと容器に移される。

「これさえあれば、なんだって作れちゃうんですよ。」

「・・・いったいなにからできてるのか、聞くのも怖ぇ。」

「おいしくできますようにの、おまじない入りです!」

「・・・呪詛の間違いじゃねぇのか?」

「まぁ、呪詛なんざ非科学的なもんが存在するわけがねぇけどな」と続ければ、「気持ちは、時に科学の限界を突破するんですよ!」と、返ってきた。意味がわからねぇと、ため息をつけば、にこっと聞こえそうなほどの笑みが向けられる。その底抜けの笑みがなにを物語っているのか、真意を読みとるのが怖くもある。
彼が小脇に抱えたボウルの中で、卵色の液体が泡立て器にからめとられ、こぎみよい音を立てる。目下、城の主は昼食の準備中である。対して自分は、料理の完成するのをぼんやり待っている。彼の手伝いをしようとは、少しもみじんも思わない。こともなげに進めている彼の動きが、意外とコツが必要であり、自分には向いていない作業であると言うことを過去、身をもって証明してしまったことがあるからだ。あっけにとられ動作を停止した幼い頃の白い彼と、慌ててタオルを取りに行こうとするも、床板にぶちまけられた液体に足を取られ、転倒する灰色の頭が、液体にまみれた前髪の隙間からぼんやりと見えた記憶は、どれほど昔に記録されたものだろうか。懐かしさより、なぜ未だに覚えているのかという疑問が先立つ。右手を振って視界から過去を消すと、すでに種はフライパンに流し入れられ、ふつふつと膨らんでいる段階であった。

「そんなに見てなくても、大丈夫ですよ。」

しろの手には、冷蔵庫から取り出したベーコンと卵がある。

「・・・なにがオレには足りねぇんだろうな。」

腰に手を当て、ふぅと息を吐く。簡単そうに見えるが、いざ自分がやるとなると、うまくいった試しがない。まさか本当に、おまじないとやらが効いているのか?いや、ありえねぇな。とはいっても、ほぼ同じ時間を同じ場所で生きているにもかかわらず、この埋めようのない差はどこから生じたのか。どのタイミングで料理に目覚めれば、今の彼に追いつく未来があったのだろうか。宙を舞ったそれがサラダの盛りつけられた皿に乗り、その直径から寸分違わず、フライ返しですくわれた目玉焼き及びベーコンが着地する。フォークとナイフの重みを感じ、「さぁ、運んで下さい!」と2皿を両の掌で示される。やれやれと、力なく首を振ることしかできない。カラの皿たちが人知れず仰向けにされた自分の両手に乗せられたことにも、その皿たちにフライパンから飛び出た料理が次々と重ねられたことにも、料理の上に色違いの食器が配置されたことにも、今更ながらに気がついた。彼にはきっと、かなわない。

【了】


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秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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