【小話】コツコツカツカツサイクル【更新】

堂長席に帳簿を開いたまま、両手を首の後ろで組んで、天を仰ぐ。ちらりと収支の欄を見やって、また逸らす。「これ、売上高のゼロが足りませんね。」と、どこかの誰かが印鑑と通帳片手に、訂正してやくれないだろうか。

「生活がカツカツの“カツカツ”って、何が由来なんですかね?」

ふと、キラキラ光る瞳が上から降ってきた。窓から入り込んでくる微風が、前髪をさらさらと揺らしている。問いかけられた質問の答えを有しているだろう、堂内に並んだ古めかしい辞書たちをめくる気にはならない。

「…オレ達には、うだうだしてる暇もねぇってか。」

「誰かさんが、こちらに来ている音かもしれません。」

軽やかなステップを踏んだしろは、靴裏で床板を鳴らした。

「…意味が違うだろ。それに、誰かさんって誰だよ?」

ほら、あちらに。

しろの指さす方向へ視線をやれば、にこにこと、愛想のよい効果音を立てた人々が、ガラス戸の向こうに群れを作っていた。彼らの目が、一様に言っている。『黒蝶堂さん、そろそろ。』

「…嘆願すれば、ギリギリ命だけは助けてもらえるかもな。」

「チクチク夜なべして作った白旗が、ついに役立ちますね!」

キリキリ痛む頭に、ぐりぐりとペンの尻を押し付ける。ドクドクと脈打つ心臓は、まだまだ止まりそうにない。畳の上で眠るように息絶えるその日まで、高々とそびえる山を黙々と登らなければならない。生きるってのは、ほとほと難儀なことだ。深々とため息を吐くも、帳簿上の数字は、冷え冷えとした現実を突きつけてくるばかりであった。

【了】

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ジャンル : 小説・文学

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説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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