【小話】気分転換の角度【更新】

「はち、どうかしたんですか?」

呼吸が、止まった。まさか、悟られたのか?

絡まった感情の塊を、余計にこんがらがらせることの多い彼だが、ごく稀に、その塊をほどく方向へ、言動が偏ることがある。空になった珈琲カップを人知れず満たす、老舗喫茶店のマスターの所作を思い出して欲しい。

「…なんでも、ねぇけど。」

つんとすました少女が書棚の上で本をめくる音が落ちてくる。

「わかっちゃいますよ。」

はちは単純ですからね。考えてることも悩んでることも、手に取るようにわかります。

言葉が喉で詰まった。普段ならば、バカバカしいと鼻で笑うところであるのに。やはり、自分でも把握していないところで調子が悪いのかもしれない。そして、いつもよりも鋭い同居人に、無性に腹が立った。湯呑みを傾ければ、温かな緑茶が冷えた舌を温めた。

「気分転換なんて、30度でも変われば十分ですよ。」

にこりと笑う同居人の頭上、

「温度は88℃、完璧ね。」

にこりともしない少女は、赤い瞳を注いできた。

【了】






スポンサーサイト

テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

メニュー
twitter
    更新情報配信中