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【小話】凍りつく水玉【更新】

扉を開けると、ひさしに積もった雪がどさりと目先に落下した。視界は白く、ひゅうひゅうと吹きつける風が皮膚に痛い。半纏に手を突っ込んだ姿勢で、店の外に出る。少し離れた場所から始まるアーケードに人通りはなく、しんと静まりかえっている。最近では正月から働いている店もあるというが、その文化はまだ、この街には入ってきていないようだ。

ぼうと考えていた彼の頭に、"雹"が降ってきた。

「痛ぇ!」

こんこんこんとリズム良く頭上で跳ねたそれらは、次々と足下に転がった。慌ててひさしの下に避難するが、次いで降ってくる様子はない。その局地性に疑問を覚えたはちは、身を乗り出して空を見上げる。雪が舞い散ってはいるが、雹の降るような天候ではない。「・・・妙だな」と呟いたはちが、地に転がった雹を拾い上げると、それはビー玉のように光り、中心に竜胆の文様が浮かび上がっていた。

ただの氷の塊ではない。それに、この文様に見覚えがある。
はちは、頭上から少し視線をずらし、黒蝶堂の屋上を見た。

「・・・やっぱり、てめぇのしわざだったのか。」

不法侵入で訴えるぞと肩をすくめると、

「氷にならなければ、僕の勝ちだったのに!」

一つも反省する様子のない少年は、ぎりぎりと唇を噛んだ。
雲間から差し込む陽光に、屋上の縁に腰かけている彼のゴーグルの端が光を反射して眩しい。人差し指を天へと伸ばし、空中に浮遊する球形の水をその指の先に留めている。屋上から投げ出した足は、冷たいであろう黒蝶堂の外壁にぴたりと張り付いており、接着剤で覆われているようにも見える。

「・・・てめぇ、そこから動けねぇんじゃねぇのか?」

はちの指摘に、「僕の体は水で出来てるから、こういうこともある」と、少年はそっぽを向いた。透明の氷のようなもので膝から下が完全に外壁と一体化しているが、さして気にしている様子もない。冷たいだろうなと、はちはぼんやりと思う。対する少年は、すぐにはちへと視線を下げ、

「今年こそ、黒蝶堂を僕の水底に沈めてみせる!」

と、指先の半ば凍った水を宙に浮かせたまま、はちに指を突き出した。すると、これまた次々に、水の球が地上に飛んできた。それを額に食らわせられたはちは、負傷箇所をさする。文句の一つでも言おうと顔を上げたとき、自然と頬がひきつった。彼の攻撃に参ったわけではない。見えてしまったその光景と、これから起こるであろう現象に対する、生理現象だ。

「・・・今年も背後には、気をつけた方がいいぜ。」

彼の背後に、赤く揺れるリボンを察知したはちは、自分の視力の悪さに感謝した。少年は怪訝そうに、はちをにらんでいるだけである。はちは思う。まもなく響くであろう絶叫に耳栓で対応しておけば、屋上での少年少女の対立にも目を瞑れるだろうか、と。
黒蝶堂の少女とゴーグルの少年は、まだまだ距離が縮まりそうにない。

【了】


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テーマ : オリジナル小説
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説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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