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【小話】半世紀分の秘密【更新】

「あら、久しぶりね。」

正月早々、やってきた客人は堂長席に座る黒川はちを前に、にこりと笑った。

「・・・えと、その。」

はちは客人の顔を、脳内データベースと照合し、一致する人物を高速で検索する。どこかで出会ったような気がしないでもないが、初対面のような気もする。自分が昔ここに住んでいた頃の客だろうか、それとも、先代堂長である祖父・故黒川伊織の友人だろうか。いずれにしても、名前どころか、名字すら全く出てこない。動きを止めたはちに、客は「ずいぶんと若返ったものだね。半世紀分くらい?」と、続けた。

「・・・えと、その。」

「覚えていないのも、無理はないね。」

客人は黒蝶堂内に点在する椅子のうちの一脚を引きずり、堂長席の前に設置して腰掛けた。

「お互い、年を取ったからねぇ。」

あんた何歳になったんだっけ?と問われたので、はちは頭をひねり、眉間に皺を寄せて数える。

「今年で、二十・・・」

「またまた冗談を!」

相変わらずおもしろい男だね、あんたは。
ばしばしと机を叩かれ、はちは「ははは」と乾いた笑いで応じた。妙な客が来るのは、今に始まった事ではない。



「・・・で、なんの用事っスか?」

日もとっぷりと暮れ、黒蝶堂内の室温もぐっと下がった。客人は未だ、堂長席の前で、堂長であるはちの動作、特に顔の辺りをしげしげと観察している。

「本屋に来るのに、理由がいるのかい?」

「・・・何か、オレに聞きたいことでもあるんじゃないんスか?」

「ばれちゃあ、仕方がないねぇ。」

客人は、あっさりと認めた。その潔さに、はちは拍子抜けして目が点になった。次いでの発言に、はちの目の形状は、更に球体に近くなることになる。ぐっと身を寄せてきた客人は問うた。

「あんたが若返った秘密を、私に教えてくれないか。」

堂内を、沈黙が支配した。書棚の上から、頁をめくる音が響いて、はちははっと自我を取り戻した。冷静になれ、と、自分を叱咤しつつ、シンプルな言葉を選ぶ。

「・・・あの、黒川伊織は三年前に他界したんスけど。」

すると、その言葉に押されたがごとく、客人は椅子から転がり落ちた。座っていた椅子が横倒しになり、派手な音を立てる。頁をめくる音をかき消すように、

「どっからどう見ても、伊織の若い頃と同じ顔だ!」

立ち上がった客の荒げた声には、動揺と驚愕が半々で含まれていた。

「・・・オレは孫で、本人じゃないんスよ。」

はちは必要最低限の言葉で答えを返す。すると、客人は椅子を元の位置に戻し、再度、そこに腰掛けて額を押さえた。

「てっきり、薬か手術かで、若返ったのかと。」

「・・・そんなに似てるんスかね?」

その質疑に大きく頷かれ、はちは肩をすくめて鼻から息を吐いた。まさか、大の大人がそんなおとぎ話めいた、もしくは、フィクションじみたことを信じたくなるほどに、自分は祖父の若い頃に似ているのだろうか。愕然とする客人に、どことなく申し訳ない気持ちを感じながらも、「まぁ、似てるとはよく言われるんスよ」と、なぐさめのような言葉を口にした。

【了】

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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

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説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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