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【小話】桜色のしらせ【更新】

両肩にくいこむリュックサックの腕、両手に握る布製の手提げ鞄、そのすべてには、今日この日のために準備した荷物が押し込まれている。

「・・・まったく、なんでこんなことに。」

黒川はちは呟く。

ここは、長い坂を上ってきたところに存在する深見ヶ原墓地である。額に汗が浮かんできた頃、長袖のシャツを肘のあたりまで捲った。夏暑く、冬寒い黒蝶堂にいると、季節の流れを感じることに鈍くなってしまうのだろうかと、眼下に広がる街を眺めて思う。

この事態になったのを、時間を戻して振り返ってみよう。

全国的に桜の開花で賑わい始めた今日この頃、
この街の住人たちに、「遥光の街で桜の名所と言えば?」と言えば、誰でもが「櫻坂神社」と答えるであろう。
しかし、昨日、黒蝶堂を訪れた少女が

「うちもなかなか綺麗だから、寄っていくといいんだぞ!」

と両に結った髪を揺らしたものだから、

「なら、お掃除もしましょうか!」

と同居人の不穏な提案が導き出され、本日に至る。
以上、簡単な回想の終了である。

「・・・確かに桜は綺麗だがな。」

遠目にほころぶ山桜に目を細めつつ、歩みを進める。

「こっちですよ、はち!」

中央広場から少し進んだ場所、黒川家の墓の前で、同居人である氷山しろがブラシを持った手を振っていた。軽く合図を返し、荷物を周囲に下ろして荷を解く。持参したバケツに近くの蛇口から水を溜め、雑巾を絞る。見上げた墓石は、想像よりも随分とぴかぴかに光っていた。

「本腰入れてやってるな。」

朝早くに出立し、先に作業を始めていたしろを見ると、彼は胸を張った。

「当然ですよ。目立ったもんがちです!」

そして続ける。

「終わったら、おじいちゃんと一緒に宴会ですからね。」

ここでしてもいいって、牡丹ちゃんが言ってましたからと、かぶった頭巾の端をきつく縛る彼に、

「・・・あんまり騒ぐなよ?」

あの荷物の量はそういうことだったのかと、はちはため息をついた。
腹も減ったが、とりあえずは、掃除が先だ。
作業着を羽織り、墓石に一歩近づいた。目を閉じ、手を合わせて一礼する。再度目を開き、空を仰ぐと、春の青を背に、着物姿の祖父が笑っているような気が、しなくもなかった。

「ぼんやりしている暇があったら、手を動かしたらどうかしら?」

にじむ世界に、にゅっと顔を寄せてきたのは、黒蝶堂の少女・ゆりであった。唐突に出現し、墓石に腰かけ書物を手に、三白眼を惜しげもなくさらした彼女に、手にしていた雑巾が地に落ちた。ふわりと桜の花びらが、舞い上がって彼女に降り注いだ。

【了】


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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

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説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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