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【小話】雨の日によんでいるのは【更新】

人が本屋に足を運び、書籍を買い求め、読みあさるのには人それぞれ、数々の理由があるだろう。

黒蝶堂堂長・黒川はちは、客人のいない堂内をざっと見渡し、目前の日誌に書くべき事を探す。表戸のガラス越しに見えるアーケードには、朝からしとしととやまない雨が打ち続けている。春の花も散ってしまっただろうかと思いを馳せ、そして、机に頬杖をつく。特段、感傷にふけるようなことでもない。それは毎年のことであり、来年も同じ事が繰り返されるのだから。それよりも今は、日誌を埋める事項の探索に頭を悩ませるのが先決であった。

「来年も今年と同じ事になるとは限らないわよ。」

「・・・だから、人の心を勝手に読むなっての。」

そもそも心を読むなんざ、非現実的なことだと、はちは声の方へ視線をやる。書棚の上には案の定、着物姿の少女・ゆりが座り、分厚い書物を膝の上に広げていた。背表紙が擦り切れていて、タイトルが判読できないそれに

「・・・一体、何の本を読んでるんだ?」

問いかけてみると、ゆりがさらりと答えを口にした。が、はちの耳には謎の呪文としか聞こえなかった。長い上に、聞き覚えのない専門用語が並んでいるようだ。何度聞いても答えは不明瞭で、おおよそ、「脳科学」の内容なのか?と推測できる程度であった。ゆりいわく、何十年も昔に発表された、当時の最先端論文だという。

「・・・一体、いつ使える知識なんだよ?」

「誰が読むんだ、そんな本は」と、はちは首を左右に振った。するとゆりはふわりと地上に降りてきて、その「なんちゃら科学読本」を棚へと戻した。

そのとき、雨音が一瞬大きくなった。気付けば、表戸が開かれていた。
入ってきた客人は傘を入り口に立てかけ、ふらふらと堂内を徘徊し始めた。はちは小声で挨拶をし、軽く会釈をする。後ろで扉が、ゆっくりと閉まる。そして堂長席の前、客人が書棚から引き出したのは、先ほどまでゆりが開いていた、数十年前の最新論文であった。それをパラパラとめくり、ぽんと閉じるとすぐに、客人は堂長席にいるはちの前に来て、「これをください」と請うてきたのだった。呆気にとられたはちであったが、すぐに古いレジスターを起動させ、会計を済ませた。「それでは」と言う客をつい引き留めてしまったのは、小さな違和感を拭いたかったからである。

「・・・あの、どうしてその本を?」

堂長からの焦ったような声音に、客は小首を傾げたが、すぐににこりと笑って言った。

「この子が私を呼んでいるような、そんな気がしたんだよね。」

「たまには雨の日に読書っていうのもいいかなと思って。それに、この本、なんとなく好い匂いがするから」と、2、3理由を述べた客は、機嫌よく黒蝶堂を後にした。

「・・・まったく、よくわかんねぇことってのはあるもんだな。」

本が人を呼ぶはずがないと、はちは日誌の書き出しをそう定めては、再度頬杖をついたのであった。

【了】

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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

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説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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