【小話】服装の話【更新】

【服装の話】

「賑やかね。」

本棚の上、膝に商売道具であるはずのハードカバーの書物を乗せた少女は、顔を上げ呟いた。
堂長席に座ったはちは、声の方へ顔を向ける。表では高校生の集団が固まっていた。

紺色の塊は女子高生のようだ。
静かな堂内には縁遠い、華やかな黄色い声は、たった一枚硝子戸を隔てただけとは思えないほど、遠い世界のものに感じられた。会話に夢中な彼女たちは、両者の視線に気づく気配すらない。

「登校中なんだろ。朝から元気なことだな。」

はちは大した興味も示さず、再び手元の資料へ目を落とした。ゆりから渡された、土地の権利書だ。
これだけではない。黒蝶堂を継ぐに当たっての、細々とした雑務が机上の大半を占拠している。
それらを「見上げ」、ため息をこぼす。すべての書類に目を通し、サインを加え、それぞれ契約を結び直さねばならない。気の遠くなる作業が立ちはだかる。

「皆同じ服を着ているのね。」

ふと、ゆりが零した。

「あ?そりゃそうだろ、学生は制服って相場が決まってんだよ。」

「だけど、靴や髪型は違うわ。」

「ああ、まあそうだな。」

はちは適当にあしらい、読めれども理解不能な、やたら難しい文体との勝負を再開した。



「賑やかね。」

本棚の上、膝に商売道具であるはずのハードカバーの書物を乗せた少女は、顔を上げ呟いた。
堂長席に座ったはちは、声の方へ顔を向ける。表では大学生程度と思われる年頃の集団が固まっていた。

静かな堂内には縁遠い華やかな黄色い声は、たった一枚硝子戸を隔てただけとは思えないほど、遠い世界のものに感じられた。会話に夢中な彼女たちは、両者の視線に気づく気配すらない。

「そらもう夕方なんだから、解放されたんだろ。…あ?」

デジャブを感じたはちは少々やつれたように見える。ゆりの手により次から次に追加され、積み上げられた書類。
朝から作業を潰していたはずが、開始時よりも明らかに仕事が増えている。明日もおそらく、HP∞の敵と戦い続けなければならないだろう。考えるだけで頭痛がするな、とはちは思考を止めた。

「皆同じ服を着ているのね。」

同様に、ゆりが零した。

「あ?そんなことはねぇだろ。全員私服だろうが。」

その指摘通り、彼女たちはそれぞれが思い思いの服で着飾っている。

「一緒じゃない。暗めの色合いの羽織りに、黒色の股引…」

「『ジャケット』と『レギンス』の事か?」

カタカナに弱いゆりへ、すかさずつっこむはちを、

「よくわからないけれど」

一言でバッサリ片付け、

「背中に届く茶色の巻髪に先端のとがった長靴。後ろから見たら、誰が誰かわからないわ。」

首をすくめた。

「そりゃ『ブーツ』だ。服装だって、確かに雰囲気は似てるが、ちょっとずつ違うぜ?それに、それが流行ってやつだろ?」

凹んだはちは食い下がる。ゆりの言わんとしている事がいまいち掴めない。

その様子にあきれた視線を送り、ゆりは付け足した。

「彼女たちも、個性を滲ませようと努力した時代を経ているでしょうに、晴れて『自由』の身になった今になって、『同じ』に逆戻りするなんて。戻らざるを得ない理由は各々あるのだろうけれど、皮肉な話だわ。」

一方的に嘆くと、再び本の世界へ旅立った。

はちは首を傾げたが、唐突な雑談がブツ切りされた事に感謝し、再々度戦闘に向かった。


【了】

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説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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