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【小話】てれびの話【更新】

【てれびの話】

「カーリングってどうなったら勝ちなんですか?」

夕飯時、一階の畳の間。丸型の炬燵の向こうで、しろが問うた。
テレビでは夕方のニュースが始まっていた。遠くの地で行われているというオリンピック。
現地に派遣されたアナウンサーが、選手の紹介や、地元の盛り上がり様を熱く語っている。

「解説者の方に、何度も説明されるんですが、理解できないんです。」

「そんなに興味がねぇからじゃねーの?」

しろは白米をよそった茶碗を、はちに渡す。
それを受け取ったはちは、沢庵に箸を伸ばす。沢庵とみそ汁に、野菜炒めと白米。
今日も今日とて、質素な献立だ。

冬の競技は夏とは違い、どことなく親近感が得られない、「特殊」な種が多い、と、はちは思っている。加えて、寒さに弱いはちは、彼らの行動意思に疑問を抱いている面もある。寒気最高潮の季節にわざわざ氷のステージなんざ、モニターの前じゃわからねぇが絶対寒いに決まってる。冬に運動しようとするなんざどうかしてる、と。

とは言いつつも、毎日、時間が合えば興味深々に観戦しているのを、しろは知っている。

もちろん、炬燵で温まりながら。

「わかるようになりたいです。テレビの中だけで盛り上がってるなんて、ずるいと思いません?」

「思わねぇよ。」

間髪いれず、しろの手首が空を切り、木製のしゃもじが飛んだ。

堅い柄の部分が額に見事クリーンヒット!派手な音が響き渡り、はちは声もなく悶絶した。

しばしの間の後、

「痛ぇ!お前!何しやがる!」

箸を机に叩きつけ、赤くなった額をさすり、中腰になったはちを、しろは冷ややかな目線で見上げ、

「この気持ちがわからないなんて…テレビを見る資格がないですよ!」

すぐに食事を再開した。

「ああ!?視覚は自前のがあるに決まってんだろ!頭のネジを、流しに落としてきたんじゃねぇのか?!」

「ネジは不燃物ですよ!最近はごみの分別の規制が厳しくなってるの、知らないんですか!?」

「そういう意味じゃねぇよ!」

売り言葉に買い言葉。どこか噛み合わない会話を繰り返し、険悪なムードになった二人を割いたのは、突如流れ始めた雑音だった。音に呼ばれた二人は、はっと我に返った。

画面を支配する砂嵐に、立ち上ぼる黒い煙。ブラウン管を内蔵したそれは、とうとう寿命がきてしまったようだ。

「はち!テレビが!」

しろが涙目で訴える。

「やべぇ!買い換える金なんてねぇぞ!」

はちが慌てふためく。ただでさえ世間に置いていかれているこの空間。
貴重な情報源が無くなるのは、大変な痛手だ。

駆け寄り、スイッチを押すが反応なし。コード接続を確認するも、素人目には異常なし。
ざぁーっと響き渡る不協和音。
気味悪さが空気を侵していく。

「まさか憑…」

はちが呟いたとき、当初から二人の間に座り、野菜を頬張っていたゆりが立ち上がった。
テレビの隣で立ち尽くすはちの傍に寄る。はちは思わず後ずさった。

ゆりはゆっくりと右手を挙げ、テレビの上に勢い良く振り下ろした。

数回繰り返す少女を見守っていると、変化が生じた。
暫くは画像の乱れと波打ちが続いたが、四度目に叩いた後、先ほどのアナウンサーが現れたのだ。
ゆりは得意げな顔をするでもなく、

「こういうのは叩けば治るの。そういうものなのよ。」

至って冷静に、席へと戻っていった。

「早く食べて終いなさい。いつ仕事が入ってくるか、わからないのだから。」

「あ、ああ。」

「そうですね!」

暫くはまだ、このテレビが活躍し続けるようだ。


【了】

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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

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説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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