【小話】しゅーるな話【更新】

【しゅーるな話】

「よく、呑み込みが早い事を、『スポンジが水を吸収するように』っていいますよね。」

黒蝶堂の表玄関をほうきで掃きながら、しろが隣のはちに聞いた。

「まあ、文語調な気がするがな。」

書類整理から一時的に解放された、昼休憩の時間。はちの表情には疲れが浮かんでいる。

「なら、最初からスポンジなら、仕事の効率が上がったり、テスト前に苦労して単語を覚えなくてもいいってことですよね。」

はちは耳を疑った。
いやな予感しかしない。こいつの突飛な発想は、一体どこで拾ってくるのだろうか。

「そろそろ仕事に戻るか。」

反射的に切り返したが、

「昨日一晩かけて、考えたんです!そして、答えにたどり着いたのですよ!」

それより早く突きつけられた、一枚の紙。逃亡は失敗した。
眼鏡をかけ直し、じっと見つめる。

「…なんだこの気持ち悪い物体は。豆腐か?」






名付けて、スポンジボクです!」


「ギリギリアウトだ!その色合いもやめろ!」

誰の為に、こんなに焦っているのか。噴き出してきた冷や汗に、はちは不快感を感じた。

「色合いって、ただの緑と青ですけど…?」

「そっちじゃねぇ!文字の色だ!」

「はちは言葉に色が付いて見えるんですね!その眼ください!」

「やるか!自前のがあんだろうが!」

しろは、ほうきで地を撫ぜた。
その中には、梅の花びらが混じる。

季節は飽きもせず、確実に移り変わっているようだ。

頭を抱えたはちに、自信満々にオリジナル設定を語り聞かせるしろ。はちの苦悩は、楽しげな彼に伝わる事はない。

「踏みつけてやりてぇな。」

「やめてください!人間がこの姿なら、すべてを受け入れられるのですよ。つまり、人間の最終形態です!」

しろの話は延々と続くのが特徴だ。
ご高説のにもまれ、うんざりした気分が蓄積される最中、ふと湧き上がった疑問。
聞く価値はあるかもしれない。

遠くに小島が見えた。

「でもスポンジなら、踏みつけられたら、全部溢れちまうんじゃねぇのか?」

「溢れたら、また吸い込めばいいのですよ。」

甘いですね、と人差し指を立てる。

「なるほど。」

反撃ののろしは上がった。
甘いのはどっちだ。結局は人間の形でもスポンジでも、やることは一緒じゃねぇか。
忘れたら、思い出せばいい。零れたら、また戻せばいいだけだ。

「はちの分も作ったのですよ!スポンジハチです!」

意気揚々と取り出そうとするしろを、手で制した。

「必要な時にちゃんと思い出せるなら、それでいい。オレはスポンジより人間でいてぇな。」

まじめな声音で、軽く笑えば、そうですか、としろは瞬間、落胆の表情を浮かべた。
よし、この話題はここで終了だ。はちが内心ガッツポーズを決めた瞬間。

しろはすぐに目を輝かせ

「ならこれは、床の間に飾りましょう!」

ほうきを放り、目にもとまらぬ速さで、堂内へ駆けて行った。

「ちょっと待て!それだけはやめろ!」

早く仕事に戻ればよかった。いつも後悔する自分に幻滅しながらも、はちはその後を追った。



【了】

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説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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