スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

【小話】うたの話【更新】

【うたの話】

先ほどから慌ただしく、右へ左へ荷物を探っているしろ。

「何うろうろしてんだ。邪魔だ。」

席の目前、狭い通路を落ち着きなく動く物体に、はちは容赦なく苛立ちを露わにする。

「僕、思いついちゃったんです。ここには音楽が必要だと。」

「おんがく?」

きらきらした目が覗いてきた。
はちは机に肘をつく。

「ええ。本屋さんでは何かしらの曲が流れていますよね。あまり意識する事はないですけど、気が付いたら口ずさんでいるような懐かしいものから、最新ヒット曲まで。美容室でもラジオが流れてたり。」

「最近の曲はわかんねぇし、美容室なんざ行った事ねぇよ。」

目をそむけ、突き放したように言うはち。

「僕が考えるに、音楽には人の心を落ち着ける効果があると思うんです!」

「ならまさに、お前に必要なんじゃないのか?」

暗に普段の突飛な行動を咎めたつもりだったが、

「だから、ここには音楽が必要なんですよ。」

逆手をとられた。
してやられたはちが口元をゆがめる。
しろは笑い、無音が支配する黒蝶堂を見渡した。

「静けさは恐怖心や不安感を煽ります。ある種の緊張感があります。音楽は、人の気持ちを操作する力があります。それも、僕らよりも凄く上手にね。」

研究の為のフィールドワークです!と、しろに連れ出されるがまま訪れた大手CDショップ。最新ヒットチャートランキング欄は、もはや未知の領域だった。ジャズ、クラシックから、アニメソング、フォークソングまで隈なくチェックしていくしろを放置し、店内に設置されたベンチに座った。

途端耳に飛び込んできた、トランス系ミュージック。ピコピコ音が、やけに印象に残る。本当に人が歌っているのだろうか。加工に加工を重ねた音は、もはや原型を探る事は難しい。時代の変化に乗ろうとしていない自分に苦笑し、気づけばずいぶん歳を重ねてきたものだと知った。

「これが大人になるってことなのかねぇ。」

遠くからしろが、幾枚かのCDを手に駆けてきた。
どれがいいですかねぇと無邪気に笑う。ああそうだ、とはちは出発当初から抱いていた真実をぶちまけた。

「知ってるか?うちにはCDプレーヤーなんて高度な物、無いんだぜ?」

その笑顔が凍りついた。完璧に、忘却の彼方だったようだ。


帰路では、一言も交わさなかった。


帰宅すると、机の上に大きな塊が乗っているのが視界に入った。はちは職業上、おそるおそる近づいた。
掛けられた布を勢い良く外し、素早く後ずさる。我ながら、無様な姿だ。
しかし何も起こらない。

それは古ぼけたレコードプレイヤーであった。

「懐かしい!」

しろの顔に笑顔が戻った。

「一体どこから探し出してきたんだ…?」

二人の記憶がよみがえる。
三年前まで、黒蝶堂の片隅で音を奏でていた存在。曲名もリズムもわからないが、静かにそこにいた存在。

「あなたたちが騒がしいから、必要ないと思ったのだけど。」

見上げた頭上。いつもの本棚の上に、いつの間にかゆりが座っていた。

「普通の登場ができねぇのか!」

はちの叫びの横で、ゆりはふわりと床へ飛び降り、レコードに触れた。

「しろの説も一理あるかと思って連れてきたの。この子は優秀だけど高齢だから、ちゃんと労わって頂戴ね。」

「ゆりちゃん、ありがとうございます!大事にします!」

同じくレコードの傍に寄ったしろ。

その後ろではちは、

「やれやれ、また近代化から一歩引いちまったぜ。」

誰にも気づかれないよう微かに笑い、操作手順を習うしろの、楽しそうな横顔を見て、

「これで落ち着くなら、最初っから苦労しちゃいねぇっての。」

欠伸を噛み殺し、二階の自部屋へ上がった。

机の引き出しの奥、学生時代に買ったレコードが眠っているはずだ。

黒蝶堂に音楽が戻ってくるのは、また別の話。


【了】
スポンサーサイト

テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

メニュー
twitter
    更新情報配信中
    上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。