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【雨風ゆらぎ】

はっぴーほりでー!
使うなら今しかない。

サンタクロースを何歳まで信じていたか、今になっても思い出せません。
小学生の頃は信じていたんだろうか・・・いや、信じていなかった。
妙なところで、勘が働いて、「サンタなんて、絶対ねーよwww」と気付いていたのでしょう。
それでも、プレゼントが枕元に置かれるまで起きておこうと努力したことが数度。
いずれも寝オチしてしまい、結局尻尾をつかむことはできなかったのです。


ってなわけで、明日は頑張らねば!
その前に、短編更新です。
前回の続きですが、諸事情で最初から最後まで掲載しておきますv


【はちの月企画 一日一短編】

【雨風ゆらぎ】


夏物処分のバーゲンが各デパートで行われる夏の終わり、今年幾度目かの台風が、遥光の街を直撃した。
そして黒蝶堂堂内では、バケツと雑巾を抱えた人間が右往左往している。

「こっちも漏れてんぞ!」

叫ぶのは、当古書店の堂長・黒川はちだ。
彼は仕事を中断、席を外し、店内を見回っている。
あちらこちらに小さな水たまりができている。
頭上から落ちてくる雫。
確かこの店は二階建てのはずで、ここは一階部分だが…と彼は唸るが、雨漏りしているのは事実。
しろに声をかければ、彼は素早い動きで地にバケツを設置した。

「まったく、これだからこのボロ屋は…。」

はちはバケツを持ち上げ、濡れた床を雑巾で拭う。

朝方から空はどんよりと曇り、表通りには、大粒の雨と風が降り注いでいる。
しろに問えば、ゆりは昨日出かけたきり、戻っていないと言う。
猫の手も借りたい、この状況。

「雨酷いですね。ゆりちゃん、大丈夫でしょうか。」

「この雨の中を出て行くなんざ、正気じゃねぇな。」

雨漏りの水滴が額に当たって目覚めたはちは、苦々しいと言わんばかりの顔で言い放つ。
睡眠が中途半端に妨害されたため、目元には隈が浮かんでいる。

「はちだって大切な用事があれば、雨やら槍が降っても行くでしょう?」

「槍なら絶対出掛けねぇよ。」

「なら、空からヤリイカだとしたら?明日は朝から曇り空、ところにより一時激しいヤリイカが降るでしょう。」

突如始まった天気予報士ごっこにはちは動きを止め、腕を組む。

「…あんなベタベタした粘着物質が降るなんざ、想像したくもねぇな。」

「夕飯には、イカ料理が並びますよ!」

「地上に落ちた時点で四散するだろ。」

「地面に当たる前にキャッチすればいいと思いますよ。」

いつの間にか、しろは右手に紺色のグローブを嵌めている。

「巧くいけば、余りを売れるかもしれませんし。」

キラキラ瞳を輝かせるしろ。彼を前に、そう言えばこいつ、両ききだったな。
妙な所で、器用な奴だ。そう再認識したはちは切り返す。

「でもよ、たかがイカとはいえ、落下速度は凄まじいだろうな。お前の大切なグローブに穴が開くかもな。」

「え!」

しろはグローブを抱きかかえ、はちは台詞を続ける。

「単に水が固まっただけの物質が、車のフロントガラスを割るだろ。要はイカの質量と高度。それに速度と量次第だな。墨も飛び散って後の片付けも大変だろうし、場合によっちゃ、台風より性質が悪いぜ。」

「なら、降りイカで一儲け大作戦は…?」

しろは恐る恐る問う。テストの点数を、解答用紙の隙間から覗こうとする小学生のように。
はちは断言する。

「オレ達素人の出る幕はねぇ。漁師さんの圧勝ってとこだ。」

弾き出された結論に、しろはガックリと肩を落とす。
ざぁざぁと雨足強くなる表通り。床下浸水が生じそうな量と勢いに、床が飛び跳ねるイカでひしめく様を連想し、
はちは顔をしかめた。

するとしろは、無言で奥間へ赴いた。
作業を再開するのかと、はちが思った矢先、しろが戻ってきた。

はちは、目を疑った。

彼はどこから持ってきたのか、バケツと釣り竿を右手に握り、青いクーラーボックスを肩から下げていた。
鼠色の長靴を履き、丈の長い水色の雨ガッパを着ている。
事態が呑めないはちとは対照的に、白い本人は、至って真面目なようで。

「イカ漁の極意を習ってきます!そして、いつかは空を釣るんです!」

自信満々でそう言い放つと、雨風揺らぐ外の世界へ飛び出して行った。

「イカに流されても、あいつなら帰ってくるだろうな…。」

白い後姿を見送り、やれやれと額を掻くはちの頭上に、冷たい水滴が襲った。



水滴が受け皿に落ちる度、それぞれの皿やバケツから音階の異なる水音が鳴る。
昼過ぎ。
雨止まず、しろ帰らず、腹の虫収まらず。
はちは誰もいない事を好都合とし、堂長席を離れ、奥間の畳上で横になる。
暫くすると、うつらうつら睡魔が忍び寄って来た。
覚醒したり、睡魔に引き摺られたり。繰り返し繰り返し、非生産的な惰眠を貪っている。

室内に落ちる水音が、ざぁざぁと表通りを殴りつける雨音と混ざる。
外の世界を遮断する音が他の雑音を遠ざけ、はちの眠りは更に深まって行く。

何か妙だと、はちが勘付いたのは、隣の空間から人の気配を感じたからだ。
大量の水が地に叩きつけられる音。それは、風呂場の辺りから聞こえてきた。

「しろが帰って来たのかね。」

よっこいしょと起き上がり、背伸びを一つ。

――こんな昼間から風呂に入るなんざ、それほど体を冷やしたのか。

帰宅の挨拶もせずに、彼らしくない。
気になり、様子を見に行くことにする。
玄関脇の廊下を通る。ふと、目をやれば、しろが普段履いている群青色の靴が置いてあった。

――あいつは何を履いて行ったか。

脱衣所の扉を開ける。やはり、風呂場は使用中のようだ。
洗濯機の傍、いつもなら着替え用の服が用意されているはずだが、
今は脱いだはずの服も、タオルも置いていない。
呼びかけてみるが返事無し。
この狭い風呂で溺れたのか。あいつなら有り得る。

はちは、「入るぞ」と言いながら、浴場の戸をスライドさせた。
途端に浴びせられたのは、予想だにしない罵声であった。

「この変態!」

「わ、わり…」

声の主が手で水鉄砲の形を作る。そして、風呂の湯を使った素振りまでは見えた。
ワイパーが下瞼に付属品として付いていれば…!
これほどまでに強く思う事もないだろう。
眼鏡があるにも関わらず、フレームの上下を通過して目を直撃した水流。
頭の先から足の先まで散々に濡れ、はちは「冷てぇ!」冷気に叫ぶ。

素早く戸を閉め、第二撃を防ぐ。
隙間風が体を撫ぜ、寒気が倍増する。ネクタイで顔に飛んだ水分を拭うと視界が開けた。

「あいつ、なに水風呂なんかに…」

いつにない怒りっぷり。それに、後ろ姿は黒髪だったような気がする。
挙がった複数の疑問。
そして、再び、おそるおそる戸を開く。

と。

「…いねぇ。」

そこには、風呂場に貯まった揺れる水面の他は、何もなかった。
残り湯に手を入れれば、かなり冷たい。
例え夏とはいえ、この雨で水風呂に入るとは、まともな神経ではない。
確認すると、窓には鍵が掛かっており、割られた形跡もない。

「オレ、疲れてんのか…。」

きっと、霞み目もしくは、幻覚だ。目をこする。
と、浴場特有の、足裏に刺さる鋭利な冷たさに、体が震えた。

「寒い、トイレ行くか。」

誰もいなかったのだ。そう、誰も。
今のは見間違いだ。
そして、この冷水は昨晩の残り湯に違いない。
きっとしろが、洗濯用に取っているのだろう。だから、このままにしておくのが丁度良いはずだ。

決して怖いわけではない。そう。

「…怖いわけがねぇだろうが。」

誰に言うのでも無く、小さく呟く。
そして風呂場を振り返る事無く、小走りで、その場を後にした。



トイレのノブに手を掛ける。

洋式のトイレは数年前、祖父が改築を加えたものだ。
彼曰く、「水周りには神様がいるんだよ。」だったか。いるわけねぇだろと、毒づいた覚えがある。
ふと昔を思い出し、はちは顔を左右に振る。
ノブを廻し、腕の力で引き寄せる。

そこには、便座に座り、本を読む人影があった。

「キュウリのてんぷら…これは旨そう。」

はっと顔を上げた。ゴーグルを頭に載せた、見知らぬ幼い少年だ。
驚いた表情。
オレも同じ顔をしているのだろうと、はちが考え付いたところに、視界は、再び遮られた。
彼が持っていた本が、顔面を直撃したのだ。



「今日は水難の相でもでてるのかよ…。」

普段は手相や占いなど全く信じないはちであったが、そう言いたくなるほど、水場での災難が続いている。
ぐったりした面持ちで畳の間へと戻る。

「一体どこのガキだ。勝手に上がり込んで黙ってトイレを借りるなんて、躾がなってねぇ。」

さすがに用を足している途中で追い払うわけにもいかず、彼が出てくるのを待つ事にした。
自分の尿意は、驚きで霧散してしまったが。

「霧散つっても、洩らしたわけじゃねぇぞ。」

ツッコミが宙を舞い、畳の端へ不時着する。
はちはその場に寝転がり、目を閉じる。
残る水場を想像して、嫌な予感を覚えた。

その耳に、心当たりのあるモノが、ごぼごぼと涙を零す音が届いた。



次の現場。予想は的中。しろの独壇場、台所だ。
はちは地を駆け、銀色を右へと捻る。
涙の主は流しの蛇口だ。
しかし止まらない。どころか、

ざばぁー!!!!

「どどどどどうなってん…!」

どんどん水が溢れて、シンクを満腹にさせていく。
底には、なぜか栓がされている。
抜こうと水中に手を差し込むが、ぴったりと嵌っていて、取れる気配すらない。
蛇口の吐き出す速度、水量は、共にかつて無いほど。
とうに限界を突破し、はちの袖口は散々の被害に遭っている。

「ちょちょちょちょ、ととととまんねぇねぇねぇ!!」

と、騒ぐはちの背後。
柱の陰から、くすくすと笑い声が発せられてきた。
はちは手を蛇口に添えたまま、体を捩じりそちらを見る。

白い半袖Tシャツにサスペンダーで吊った七分のズボン。
影になり色を窺えない眼球の上。
巨眼レンズと称して良いほどの、まるで巨大な瞳を模したようなゴーグルが、薄気味悪くはちを捉えていた。



案じていた床上浸水が、実際に起こってしまった。
台所を侵したそれは急流となって堂内へと流れ込み、床を水浸しにしていったのだ。

イカで無かったことが、せめてもの救いなのだろうか。
はちはズボンの裾を膝ほどの高さまで折り、表通りに面した戸をあけて通路にたまった水を出しつつ、
本棚の本を二階へ持って上がるという先の見えない作業に、今にも心が折れそうであった。
いくらか水没してしまった本もあり、大切な商売道具が…!と一瞬だけ後悔したが仕方がない。

――今は残った分を助けるのが先決だ。

少年は、相変わらず棚の影に立ち、足が濡れるのもいとわずに、黙々と作業を続けるはちを観察している。

ちらちらと、はちの働く様を窺っている少年の足元を覆うは、淡い水色の長靴。
はちが視線を送れば、目が合う前に柱の陰に隠れる。

間違いないようだ。
青みがかった黒髪に、でかいゴーグル。
彼は、風呂場とトイレにいた少年だ。

自らの所行を反省して、その旨を伝えたいが、後ろめたい気分が邪魔をしてなかなか言い出せない。
そんな所だろう。

正直に言えば、突っ立ってないで、書物の運搬を手伝ってほしいところだが…彼も立派な客だ。
それに今は、少年に作業の説明をする時間すら惜しい。
この雨の中を追い返すにも行かず、仕方なく放置してしまっている。

ざぶざぶと、足首より上程度の高さまで出来てしまった、堂内の川を渡る。
古本は湿気や水分に弱い上、ちょっとめくるだけで破れてしまう物もあり、実際にプカプカと、本の切れ端が水に浮いている。

ぎりぎりとこすれる音。
開かれたガラス戸が音を立て軋んだようだ。
表通りも土気色の泥水が流れていて、どこからが店でどこからが道路なのか、判別できないほどに被害は大きいようだ。

この水量は、留まるところを知らないようだ。
ふと、少年の立つ場が気になった。
彼は長靴を履いているが、その口にまで水位が上がったのではないか?
沁み込んでくる雨水の感触は、きっとこの雨の中半袖を着ている少年であっても好きでは無いだろう。
都合が悪ければ、畳の間に上がっても、差し支えないだろう。

――しろがいねぇから、茶は出せねぇけどな。

声を掛けると逃げてしまうだろうから、ゆっくりと歩み寄ってみる。
彼はよそ見をし、はちの接近に気が付いていないようだ。

はちは、眼鏡をネクタイで拭い、掛け直す。だが、現場は変わらなかった。
長靴が踏む床の一帯。人一人が立てる程度のスペース。
その場が円形に切り取られているような錯覚を受けたからだ。

円の中心に立つ少年。
いくら見直しても、その円内は、一滴も浸水していない。

――彼は、黒蝶堂の床に、”直に”立っていた。

ゴーグルが鈍い光を放った。左右の配色は赤と青。
見覚えのあるその色合い。
更に、左手の甲には、白い包帯が巻かれている。

はちの背中を悪寒が走った。

まさか。

少年は、笑った。

「この間の礼に来た。」

一種のいじめっ子を彷彿とさせる口元のゆがみ。
彼が右手を空に揺らせば、はちの背後で轟音が鳴った。

「水難ってレベルじゃねぇぞ!」

彼の素振りとそれに伴う音を合図に奥間から流れ出した濁流は、あっという間に堂内へ注ぎこみ、表通りへと繋がる川を作った。
濡れない様にと捲りあげたズボンは、もう腰のあたりまで浸食された今となってはなんの効果も無い。

同じ堂内にいるにも関わらず、少年の周りだけは浸水被害に無い。
円が円柱と化し、彼を見えない保護域で囲っているかのようだ。

水圧で動きが鈍くなったはちに、少年は足を向ける。
彼が歩く道上は、歩調に合わせて水が自然と避けていく。
少年は包帯を取った。手の甲には、三カ所の深々とした穴が空いていた。

「これ、忘れたとは言わせない。」

途端、はちは足をからめとられ、水中に転倒した。
驚きと冷たさに起き上がろうとするが、足首を、何者かによって押さえつけられている感覚に叶わず。
更に首にかかる圧力。
水中で空気が吸えず、少年の顔がおぼろげに見える。
自らの口から零れていく酸素の気泡が、上へ上へ。堂の天井へ向かって登って行くようだ。
もがけどももがけども、逆に苦しみが湧くばかり。

泡と歩を共にし、遠ざかる意識。



「さよなら、はち堂長。」



少年の声が遠くに聞こえた。







頬に感じた電撃の様な衝撃に、慌てて上体を起こす。
左右を見る。
ここは奥間、畳の部屋のようだ。
しかしこの部屋は、先程水害に遭ったはずだが。今は綺麗に片付いている。

「しっかりして頂戴。」

傍に置かれた眼鏡を掛け、確認する。隣にちょこんと座るのは、久方ぶりに見る少女だった。
頭のリボンを揺らし、じっとはちを見ている。
びりびりと痺れる頬は、きっと彼女の仕業であろう。

「おい、水はどうなった?!あの化け物は…?!」

「落ち着いて。話を聞いて頂戴。」

話によると、ゆりが黒蝶堂に帰って来た時、はちは水中で紫色になっていたらしい。
その少年を捕まえて、水を全部表に流してしまったと言う。

そんなことができるはずがねぇ!とはちは言うが、少女は「私はここの憑者だから」と返すに留まる。

「私がいない時を狙うなんて、なんて臆病者。」

彼女は冷徹に一蹴する。

「あいつはどうなった?」

当然浮かんだ疑問を呈すると、彼女は冷蔵庫を指した。

はちは訝しんだ。どういう事だ?

「冷凍庫の方。そろそろ4時間くらい経つかしら。」

「……!」

彼女の言葉を理解するに、一定の時間を要した。
そして絶句。絶句を越え、おそるおそる問うてみる。


「だ、大丈夫なのか?」

「安心して頂戴。綺麗に収納できたから。」

彼女は冗談を言っている風でも無い。真面目な様子だ。

「そういう問題じゃねぇよ!」

はちのツッコミにも動じることなく、ゆりは「水は凍らせるに限るわね。」

真顔でそう言うと、すっと立ち上がり、冷蔵庫へ歩く。そして、躊躇なく扉に手を掛けた。

はちは、予想される最大の惨劇に、思わず目を覆う。

これは正当防衛が適応されるレベルだろうか、他者に理解される事態なのか?


「はち、現実を見て頂戴。」


ゆりの冷たい声が、はちの決心に繋がった。


――例え冷凍された肉が落ちてこようと、あなたのためにやった事なの、と言われようと。

「オレは一切関係ありません。」


――これだ。これで罪は免れるはずだ。

それでも、怖いは怖い。
びくびくしながら指と指との間隙から覗いてみる。
そこには、少年が立っていた。全身には白い氷の塊が付着し、霜が体に降りたかのよう。
少年はずれ落ちるゴーグルを押さえ、半ベソをかいている。
そのゴーグルの下からは、つぶらな瞳が顕になっていた。

「お、覚えてろ!」

「典型的な悪役台詞をどうも。」

ゆりの皮肉が飛ぶ。
少年はへっぴりごしになりながら、雨風吹き荒ぶ表通りへ走って逃げかえっていった。


「てめぇ、あいつが丈夫だったからよかったけどよ…殺人沙汰は御免だぜ。」

静かになった黒蝶堂。部屋は綺麗だったが、堂内は凄惨な状態になっていた。
そろそろ片づけをしなければ、夜になってしまう。

散らかり放題の堂内に、はちは溜息一つ。本当に今日は疲れる一日だった。
対して余裕に満ちたゆりは、悪意溢れる顔でくすりと笑った。

「あら。これでも手加減したのだけど。」

ゆりは誰との言葉遊びをしているのか。きっと、あの子どもはまたやってくるのだろう。
根拠は無いが、はちはそう思わざるを得ない。

「そういう問題じゃねぇよ!」


心からの本心が流れた。
堂内には、最大の被害者の咆哮だけがむなしく響いたのであった。

【終】

この日の夕飯は、イカ料理が並んでいるはずです。
きゅうりな彼の出番は、また後日。

忘れたとは言わせない詳細→夕闇に流れる 灰色の影


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【雨風ゆらぎ】

今日は冬至らしいですね!
蒸したかぼちゃが食べたいです。
なのに季節外れの短編置いておきます。
しかも、続き物です。


【はちの月企画 一日一短編】

【雨風ゆらぎ】


夏物処分のバーゲンが各デパートで行われる夏の終わり、今年幾度目かの台風が、遥光の街を直撃した。
そして黒蝶堂堂内では、バケツと雑巾を抱えた人間が右往左往している。

「こっちも漏れてんぞ!」

叫ぶのは、当古書店の堂長・黒川はちだ。
彼は仕事を中断、席を外し、店内を見回っている。
あちらこちらに小さな水たまりができている。
頭上から落ちてくる雫。
確かこの店は二階建てのはずで、ここは一階部分だが…と彼は唸るが、雨漏りしているのは事実。
しろに声をかければ、彼は素早い動きで地にバケツを設置した。

「まったく、これだからこのボロ屋は…。」

はちはバケツを持ち上げ、濡れた床を雑巾で拭う。

朝方から空はどんよりと曇り、表通りには、大粒の雨と風が降り注いでいる。
しろに問えば、ゆりは昨日出かけたきり、戻っていないと言う。
猫の手も借りたい、この状況。

「雨酷いですね。ゆりちゃん、大丈夫でしょうか。」

「この雨の中をか。」

雨森の水滴が額に当たって目覚めたはちは、苦々しいと言わんばかりの顔で言い放つ。
その目元には隈が浮かんでいる。

「はちだって大切な用事があれば、雨やら槍が降っても行くでしょう?」

「槍なら絶対出掛けねぇよ。」

「なら、空からヤリイカだとしたら?明日は朝から曇り空、ところにより一時激しいヤリイカが降るでしょう。」

突如始まった天気予報士ごっこにはちは動きを止め、腕を組む。

「…あんなベタベタした粘着物質が降るなんざ、想像したくもねぇな。」

「夕飯には、イカ料理が並びますよ!」

「地上に落ちた時点で四散するだろ。」

「地面に当たる前にキャッチすればいいと思いますよ。」

いつの間にか、しろは右手に紺色のグローブを嵌めている。

「巧くいけば、余りを売れるかもしれませんし。」

キラキラ瞳を輝かせるしろ。彼を前に、そう言えばこいつ、両ききだったな。
妙な所で、器用な奴だ。
再認識したはちは切り返す。

「でもよ、たかがイカとはいえ、落下速度は凄まじいだろうな。お前の大切なグローブに穴が開くかもな。」

「え!」

しろはグローブを抱きかかえ、はちは台詞を続ける。

「単に水が固まっただけの物質が、車のフロントガラスを割るだろ。要はイカの質量と高度。
それに速度と量次第だな。墨も飛び散って後の片付けも大変だろうし、場合によっちゃ、台風より性質が悪いぜ。」


「なら、降りイカで一儲け大作戦は…?」

しろは恐る恐る問う。テストの点数を、解答用紙の隙間から覗こうとする小学生のように。
はちは断定する。

「オレ達素人の出る幕はねぇ。漁師さんの圧勝ってとこだ。」

弾き出された結論に、しろはガックリと肩を落とす。
ざぁざぁと雨足強くなる表通り。床下浸水が生じそうな量と勢いに、床が飛び跳ねるイカでひしめく様を連想し、
はちは顔をしかめた。

するとしろは、無言で奥間へ赴いた。
作業を再開するのかと、はちが思った矢先、しろが戻ってきた。
はちは、目を疑った。

彼はどこから持ってきたのか、バケツと釣り竿を右手に握り、青いクーラーボックスを肩から下げていた。
鼠色の長靴を履き、丈の長い水色の雨ガッパを着ている。
本人は、至って真面目なようで。

「イカ漁の極意を習ってきます!そして、いつかは空を釣るんです!」

自信満々でそう言い放つと、雨風揺らぐ外の世界へ飛び出して行った。

「イカに流されても、あいつなら帰ってくるだろうな…。」

やれやれと額を掻くはちの頭上に、冷たい水滴が襲った。

【続】

まだまだ続くでゲソ!
イカ娘は見たこと無いですのでゲソ。
…使い方絶対間違ってる。流行語おめでとうです。


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【天使と歌声】

コメントの返信をいたしました!ありがとうございます~。
ぼたん
 /黒蝶堂が、ゲームになるぞ!\
     もちろんウソなんだぞ!


さて、久々の短編です。
今回は、ゆりと、もうひとかた。新しいやつが登場しますb
・・・描く側が手を焼きそうになるほど、アクの強いやつです。
相変わらず、駄弁ってるだけですが。


↓↓よろしければ、ずずいっとどうぞ↓↓

【はちの月企画 一日一短編】

【天使と歌声】


「煙の事を、『紫煙』って言うのは何故だ?納得できないぜっ!」

足裏で幾度も地を叩き、組んだ腕の先。
右手の人差し指をせわしなく動かし続ける男。
誰に対してでもなく、一人でぶつぶつと文句を言っている。

「どう見ても白だっ!」

「『天使と歌声』、それに母親が同時に誕生するこの場所に、あなたはひどく似合わないわね。」

産婦人科を主に扱っている、遥光の町でも屈指の巨大な病院。
その屋上はただただ広く、降り注ぐ陽の光が地に当たって空へと反射する。
干された大量の白いシーツが、風にはためく。

その一角。

「天使?どれも似たような猿にしか見えないぜっ!」

男はイラ立つ態度を隠そうともせず、短くなった煙草を携帯灰皿に押しつけ、煌々と灯っていた火を消す。
といっても、喫煙を遠慮するわけではなく、二本目に火を点けるためだ。

ゆりは、黄色をまとう彼に呼び出されていた。



「生まれた時に息吹き、死ぬ際は息を引き取るのだそうよ。」

「生は吐き出し、死は吸い込むってか。よくできてるなっ!」

二本目に満足したのか、黄色い彼は冷静さを取り戻し、ゆりの話に耳を傾けている。
柄が長い内は会話も可能なのだが、段々と短くなるにつれ、彼の機嫌は悪くなる。

咥え煙草は、いわゆる彼のイライラ指数といっても差し支えない。

「あなたも、息吹き始めた時があるの?」

ゆりが意地悪な笑みを浮かべ、彼に問う。
彼は口を綻ばせ、遠くを見るような顔で応える。

「そんな数百年前の話、もう忘れたぜ。」

「あら、数千年の間違いじゃなかった?」

その言葉に、男は空へ”紫”煙を吐き一息入れると、

「そうだったかもしれないなっ!」

横顔で、ふっと笑った。



「これ、嬢ちゃんのだろっ?」

弾む語尾と共に差し出すは、三本の万年筆。
それぞれ白、赤、黒を基調とした全体に、黒い羽を持つ蝶のデザインが持ち手に施されている。

「あら。」

ゆりはしげしげとそれを眺め、あぁ、あの時の。と呟いた。

「あいつが泣きながら持ってきたんだぜ。少しは手加減してやってくれ。」

苦虫を噛み潰したような表情で、男は言う。

「軟弱者ね。」

ゆりが冗談めかして返す。

が、向かいの男にとっては笑いごとでは無いようで。
煙草の火が燃え盛り、柄が見る見ると短くなっていく。
帽子に遮られ、表情は明白ではないが、黄色い光が帽子の隙間から零れている事は遠目でも分かる程度。

「まったくだっ!」

途端、彼が握っていた屋上の柵が、ぐにゃりとひしゃげた。

まるで絞ったあとの雑巾のように、綺麗なロール状を形成した。
その上、直線だったパイプが下方向へ変形している。
男は慌てて手を離す。が、後の祭りだ。
やっちまった、と顔に書いてある。
一方。ゆりは驚くでもなく嘆くでもなく、首を左右に振る。

「あなたこそ、少しは加減して頂戴。」

「…失礼。」

次の瞬間には、男は平静を取り戻していた。
三本目に火を点けたのだ。
力ずくで白い柵を元に戻そうとすれば、パイプは更にあさっての方向を向き、修理をしているのか
破壊をしているのか、分からない有様。

ぐぬぬぬぬ、と唸る男へ、ゆりは一言。

「その子が息を吹き返すかは、あなたの力加減次第よ。」

言い放つや否や、

「ちょっと、嬢ちゃん、手伝ってくれっ!」

男が制止するのも聞かず、どことなく軽やかな足取りで、屋上を後にした。

【終】

黄色の彼は、また後日に登場させられる…といいなぁ。

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【雑踏のベル】

視力がた落ちのため、眼科の予定を入れました。

発端は、車道の信号と、下に浮かぶの矢印でした。
あれが合体して、赤いチューリップ(赤が花弁で緑が草葉部分)に見えたとき

「これはまずい」
と思いまして。

すっきりした瞳で、新年を迎えられそうです。

ってなわけで、小話更新。
本日の御題は「雑踏のベル」。一話完結ですので、さくっとどうぞv


【はちの月企画 一日一短編】

『雑踏のベル』


かんかんかん。
遮断機が下りる。遮り断ち切る機材が、自分とあちらの世界を強引に裂く。
あちらの世界のその先、その向こう。

――先代堂長、黒川伊織が居た。

目を疑う。彼は三年前に死んだのだ。
彼の痕跡は、黒蝶堂の内外問わず、あちらこちらに残っているのに。

だが目前の彼は、余りにも自然に、風景に溶け込んでいる。

白昼夢?それとも幽霊?
いや、違う。
彼はすぐそこに立っている。
生前と同じたたずまいで、微笑んで、手招きをしている。

その唇が、ゆっくりと弧を描く。

「さぁ、おいで。ゆり。」

本物でも幻覚でも、もうどうでもよかった。
――手を、伸ばした。

「おい、どうした。ゆり?」

はっと我に返る。
若かりし頃の伊織に類似した声質は、”彼”を”彼”と錯覚させるには十分なのか。

気がつけば既に遮断機は空を指し、夕方の往来激しい人通りは『雑踏のベル』とも呼べる程、
騒がしく耳障りな雑音となっていた。

白昼夢?それとも幽霊?
いや、違う。
あれは記憶だ。昔この通りを彼と歩いた時の名残が、この場に染みついていたのだろう。

「珍しいな、ぼんやりするなんて。」

「これは何?」

「あ?」


見ずとも感触で解る。
左の手首が、はちの右手に掴まれている。
はちは溜息一つ。

「電車が来るって警戒音がうるせぇのに、てめぇが止まらねかったからだろうが。」

「そうだったかしら。」

「そうだっての。」

「……」

しばしの沈黙。

「…なんだよ。」

「あなたは伊織さんじゃないわ。」

他者から無感動と称される語調を飛ばしてみる。
突然挙げられた祖父の名に、はちの瞳孔は僅かに揺らいだ。

「…当たり前だ。悪かったな。」

予想通り、ばつが悪そうに、はちはそっぽを向いた。
これほどまでに次の仕草が予測されやすい人間も、そうそういないだろう。

「でもあなたは、私を制御したわ。」

「そらそうだ。」

「だから、私はこの道を通れるの。」

「…論理が飛躍しすぎて、意味不明になってるが。」

はちの不可思議な表情に、答えを与えず歩き出す。
手を離すタイミングを逸したのか。
彼は、半ば引き摺られるかのようについてくる。

「たまには自分で考えて頂戴。それが堂長の仕事よ、黒川はち。」

踏み切りを、横断していく。
伊織の姿は、どこにも見当たらなかった。



彼の声で白昼夢も、幻覚も消えた。
その瞬間、記憶は、過去となった。

――やはりはちは、黒川の人間なのだ。

今更だが当然の事実に、緩む口元。
波風一つ立たない、穏やかな水面。
そこに突如として投げ込まれた石。
その変化に不安と期待が交錯する。

――この高揚感は、紛れもない本物だ。

足元覚束ない青年を見返り、じっと観察してみせる。
眉間にしわの寄った彼と目が合い、思わず口走っていた。

「はち、早くここまで来て頂戴。早く、必ず。」

【終】

珍しくゆり視点でお送りしました。
彼女の言う”ここ”にはちが辿りつける日は、いったいいつになるのやら?
お付き合い下さり、ありがとうございました。


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『淡い白雪』

泥棒の黒澤さんに惚れる。「だから?」って言っても許される人だと思う。
わかった方は、お友達ですね!

ラストスパート!ってことで短編更新です♪
↓↓いつも以上に内容が無いよ!それでもよければまたーりどぞ↓↓


【はちの月企画 一日一短編】

『淡い白雪』


「透き通る乳白色に、世の女性が嫉妬するほどのキメの細かさ。まるで『淡い白雪』のようではないですか!」

夕食後。黒川はちがニュースを見ていた頃。
氷山しろが、軽やかな足取りと共に鼻歌を歌いながら現れた。

ごろりと横になり、うつらうつら。
夢の世界に片足をつっこみかけていたはちは、その気配に、一瞬にして現実に引き戻された。
左隣に腰を下ろしたしろを、不機嫌そうに睨みつけるが、効果は無い。
上体を起こし、後頭部を掻く。あくびを一つ。

右目を人差し指で拭うと、しろの様相が視界に入った。
彼はうつむき、肩を震わせていた。

「おい、どうした?」

具合でも悪いのか、と続ければ、しろはすくっと立ち上がる。
手には銀色に輝くスプーン。
机上には青いパッケージの…

「この時のために生きてると言っても、過言ではないですね!」

はちの現場検証の途中、その思考を遮る声が脇から発せられ、はちは眉根を寄せる。
が、その感情が白い彼に届く事は無い。
はちは溜息一つ。

「風呂上りにアイスとは、贅沢な暮らしだな。」

「まったくですね!」

よく見れば、しろはタオルを肩に乗せ、髪も乾かしていない。
髪が室温で乾いていく事も厭わず、二口目を口内に放っている。

「よくもまぁ、あれだけ飯を食ったくせに、まだ食えるとはな…胃袋どうなってんだ?」

「まったくですねー。」

はちは、隙を見て冷菓の容器に手を伸ばした。
と言っても、横取りして食べようというつもりではない。
何が白い彼をここまで夢中にしているのか、もしや中毒性の高い成分が含まれているのでは?

と考えたからである。

だが、その疑問は解決されなかった。

気付いた時には、手の甲にスプーンが刺さっていた。



悶絶するはちの隣で、もくもくと口に白い物体を運ぶしろ。
はちは痛覚に生理的な涙を浮かべながら、傷口を押さえる。
絆創膏を探して貼り付けると、アイスの彼から少々離れた位置に座る。

「調子に乗って食い散らかしてると、体も白くなるぞ。」

「…まったくですね。」

しろは落ち着きなく手を動かしている。
そして、ちらちらとはちの様子を窺っている。

盗らねぇっての、とはちは口の端を引き攣らせる。

「…太っても知らねぇぞ。」

はちの諦めが籠った言葉に、しろは動きを止め、アイスを机に置いた。

「はち。」

「な、なんだよ。」

真面目な顔。翡翠色の目がはちを捉える。
少々の間。

はちが目を逸らせないでいると、その目が、にこりと笑った。

「好物を我慢する位なら、舌を切った方がましです。ね、ゆりちゃん?」

「まったくね。」

いつの間にか、背後を少女に取られていた。
頭上より降って来た言葉に、はちはビクリと反応する。

「てめぇ!少しはまともな登場ができねぇのか!」

しかしやはりここでも、はちの言葉は拾われないまま地に落ちていく。

「甘い物は別腹よ。」

絶対不変の定理を手に入れた、と言わんばかりの口調で言い放つ少女は、板チョコレートをぱきりと前歯で割った。

結託した彼らを前に、はちは顔を左右に振る。
まるで、不治の病を患者に宣告する医者のように。

「お前ら、虫歯になっても面倒みねぇからな。」

【終】

おちなんてないよ!読んでくださってありがとうございます♪

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説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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